続きは母屋に帰ってゆっくりと伝えた。弘はしばらくの間、何も言えずにいた。
「弘さん、すずさんのことを恨んじゃぁいけんよ。若い上に、あんたや芳蔵さんがおらんようになって、きっと動揺したんよ」
と安治の妻が言った。
「はい。わしらが無理をしたばかりに、皆に迷惑をかけてしもうた。武をこの手で抱きたかったですのう。で、おやじは生きておるんですか」
「芳蔵はプサンにいる。お前のことは死んだと聞かされ、その後の大戦やらで動けずにいたら、武と出会ったそうだ。身元は明かさず遠くから見守っていたとか。繋がりはあの兵隊さん、郭さんからなのだそうじゃ。彼が一度手紙をくれた中に記してあったんじゃ」
「……おやじには近いうちに会いに行きたいと思います。孫にも会えれば会いたいのう」
「弘よ。まあしばらくはここでゆっくりせいや。お前の家も時々手を入れてあるけー、すぐに住めるようになる。この先のことは相談にも乗るから、身体を休めんさい。それに、ばあさんや、あれを。郭さんが送ってきた手紙と、あれを出してきんさい」
弘の前に三枚の写真と、かなりの金子が出された。手紙を添えて。安治が言う。
「この手紙はわしに来たものじゃが、添えて渡すで。金子は郭さんが国に帰りんさるときに手配した船代やら、武が向こうで勇敢にも従軍したときの褒美じゃとなっとるが、船はキクの目を治してくれたのと、武を男にしてくれたときの礼じゃと思うとるで、これはお前が受け取ったらええ」
「それは」
「ええから、収めんさい」
「分かりました」
弘は写真を手に取った。郭さんらしい軍服の立派な男性。それに肩を並べている、武と思われる割と大柄な童顔の男の子。並んで老夫婦。二枚目は、可愛い女性の横に並んだ武。三枚目は、銃を背に敬礼をしている武。弘は顔をくしゃくしゃにしていた。両膝の上の握りこぶしは震え、鼻水が細く長くその上に落ちていた。声を殺して泣き続けた。自らが招いた不幸を、どうやって誰に向けて謝罪すればいいのか。弘の心情を察して皆が泣いていた。
「すみません。本当にすみません……」