【前回の記事を読む】安倍政権時代の「加計・森友疑惑」「桜を見る会」を振り返る
第3章 現代政治の実態
日本の現状
最近は、多くの国民が気づかぬうちに、思想・言論が制圧されそうな社会情勢になっているようである。いずれは軍国主義時代と同様に、日常の生活でさえ息を殺して暮らさねばならないかもしれず、それは日本の国民がみな個人の自由を奪われ、国家権力の意のままにされるということでもある。
安倍首相の唱える「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の実体は、「平和な日本の憲法をこわす首相の会」なのではないであろうか。
さすがに、2015年になって人文系や自然科学系なども加わっている、法律とは限らない学者らのグループ「安全保障関連法案に反対する学者の会」(6月15日現在で約2,700名)が、政府に対して憲法を無視した法案を撤回するよう声明を発表した。
けれども、安倍首相は同意しない委員たちを馘首し、日頃から懐柔している大手の新聞社や放送局の上層部(注1)を通じて憲法解釈変更の説得を図ったとしか思えないが、7月15日には平和憲法改正の前段階である「安保法案」を強行可決(注2)したのである。
もちろん、この強行可決を非難する国民も多く、「法案に反対する学者の会」の賛同者は7月20日に1万1279人となり、連日国会議事堂周辺や各地方都市で集会・デモ行進などが行われたが、8月30日には全国200カ所で実施された。
そして、元内閣法制局長や元最高裁長官も「違憲である」と批判し、野党も抗議したけれど、与党はさらに集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案を9月19日に強行可決させたのである。そこで、中谷元防衛大臣は国連平和維持活動のためと称して、2016年4月南スーダンへ自衛隊を派遣し、さらに政府は11月に南スーダンの自衛隊に対し、安保関連法に基づく「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」の新任務付与を決め、他国軍とともに武器を使用することにしてしまったのである。
また、安倍政権は武器輸出三原則を撤廃し、防衛省に外局「防衛装備庁」を新設した。財源の3分の1を新たな借金(新規国債発行)で賄わねばならぬ厳しい2017年度予算案の中で、防衛費を5兆1251億円と5年連続して増加させ過去の最大額にしている。
そのような日本とアメリカの合同演習に呼応するように、中国が空母艦隊を西太平洋に向かわせた。アメリカの原子力空母は北朝鮮のミサイル挑発を阻止しようと、2017年4月から日本海に入り、5月14日・21日の連続ミサイル発射などに対して3隻目の原子力空母打撃群を西太平洋へ出動させようとした。
米韓合同の軍事訓練を強化して行うのに対して、北朝鮮は次々とミサイルを発射し水爆実験まで始めたので、国連にこれらの行為への制裁決議を提出したが、ロシア・中国などの反対で効果のない状態で終了している。
(注1)NHKは常に国会中継を行っているが、7月15日午前の衆院特別委員会での安保法案審議を放映しなかったし、全国版の新聞の中にはこの強行可決を「良し」と報道したところもある。さらに、安倍政権は2018年3月に「政治的公平を求める放送法」を撤廃する方針も明らかにしている。これらについては川端和治著『放送の自由』岩波書店、2019参照
(注2)安倍首相は戦前・戦中をとおして反戦を主張した祖父安倍寛氏の考えに反し、旧安保条約を締結した妻方の祖父岸信介氏に続いて、この安保法案を可決したことになる。