巨大な生き物は、地面に釘付けになっている二人を見た。そして二人に頭を下げたように見えたかと思うと、赤ちゃんの入った箱を宇宙船の外にそっと差し出した。それから自分は宇宙船に乗り込んでドアを閉じてしまった。

宇宙船は音もなく空中に浮かび上がる。ヒューヒューという音だけは小さく聞こえるが、エンジン音という感じではない。例えれば、気管の弱い人が発するときの呼吸音に似ている。だが、苦しそうなそれとは違う。宇宙船は、一五メートルほどの高さでゆっくりと回転しながらしばらく留まっていたが、一〇〇メートルほどの高さにまで上昇すると、ふいに消えて見えなくなった。

音も出さず、飛行機雲のような痕跡もない。二人は上空をしばらく探索したが、どこまでも続く空の(あお)さをまぶしく感じて、元の笹薮に目を落とした。

啓一と節子は赤ちゃんの方へ歩き出す。クマザサの(やぶ)に覆われた沢は、木や草がわずかに倒れているのが確認されたが、他に異常は見当たらない。一部始終を目撃していなければ、誰かが赤ちゃんを箱に入れて、深いクマザサの藪の中へ捨てていったのだと思うだろう。

二人は完全に混乱していた。しばらくして、赤ちゃんが泣き始めた。そこでようやく二人は我に返った。泣き声はまったく普通の赤ん坊である。毛布でくるまれた赤ちゃんは、生まれてから数週間ほど経っているように思われた。そこには、どこにでも見かけるかわいらしい赤ちゃんが、箱に入れられた状態で放置されていた。

【前回の記事を読む】「もっと私に構ってくれたら子どもができた」妻の恨み言に衝撃