1998年12月18日 ヨーロッパ歴史訪問記中間総括(その2)
-ナショナリズム-
ここから先はイングランド中世国法刑法史がご専門の英米法担当の大学教授Iさんの専門ですが、イングランド議会制度、法律等が統治システムとして他の制度より普遍性、優越性があったのではないかというのが私見です(I教授は何かアイデアをお持ちでしょうか)。
地政学的には狭すぎず広すぎない英仏海峡のお陰で、イギリスがヨーロッパ列強のバトル・ロイヤルを勝ち抜けた面もあると思います。
Qさんの解説ではイギリスの外交政策の基本は「ヨーロッパ大陸に優越的なパワーを作らない」のだそうで、二正面作戦を展開せざるを得なかったドイツより海を隔てて高みの見物のできるイギリスの方が有利であったのは否めません。
その意味ではどの国、地域も辺境[1]国家、地域が有利になる法則みたいなものがあるようです。
イギリス以前のもう1つの世界帝国スペインはイギリスと共に辺境国家ですし、中世ドイツの2大パワー、ブランデンブルクもオーストリアも神聖ローマ帝国の辺境でしたし、モスクワ大公国もロシアの辺境だし、ロシア自体もヨーロッパの辺境です(アメリカ合衆国は言わずもがな)。
もう1つはパソコンのデファクト・スタンダードと同じで、先にマーケットを獲得した方が優位となる面があります。
その意味では英語なり他のアングロ・サクソン・システムは好むと好まざるにかかわらず世界標準である事実は否定しがたく今更文句をいうよりあっさり諦めて受け入れ利用するのが賢明です。となるとこれからますます狭くなる世界で生き残るためには英語が必要です。日本文化の独自性・特色は価値ありますが、オランダ等の小国で外国語普及率が高いのは聴衆が少ない母国語より英語の方が情報発信効果が高いからです。
長い目で見ると日本人も独自性を語るだけでなく英語で世界に発信すべきでしょう。
別に英語が言語的に優越性があるわけではないのですが、インターネットに流れる言語種別を見ても英語に収束しつつあり今や英語は言語の世界標準です。
最後に最近の日本を見て一言。
日本的システムのグローバル・スタンダード(国粋主義者には嫌われますが実体はアングロ・サクソン・スタンダード)への調整はいろいろな機会でお話しした通りですし遅かれ早かれそうなるでしょう。見方を変えて現状の日本がそれほど悪くないのではないかとの意見です。
未曾有の危機と言われていますが考えてみれば人口老齢化、出生率の低下を勘案すれば成長率が低下するのは当然で、それほど心配しないことです。
あと100年で人口が半分になるとして単純に考えて住宅も公園も一人当たりでは倍になります。
ヨーロッパでは田園地帯も住宅も公園もきれいでゆとりがありますが、可耕地、可住地当りの人口を考えると日本は世界で最過密です。面積当たりの人口密度が世界一と言われるオランダでもアムステルダムから列車で30分も走ると豊かな農場地帯になりますし、ヨーロッパは日本と違い農業政策が一貫していて食料自給率はほぼ100%です。
食料だけの問題ではなく人間が快適に生活する空間を確保するのが農業政策の重要な目的です。
ヨーロッパの豊かさを見ていると日本の最大の問題は人口過密で、今日本の人口が減少しつつあるのは自然の摂理かもしれないと思います。それがいやなら解決策としては移民を受け入れることです。道路、橋、空港にしろコスト負担する世代人口を増やす(もしくは維持する)最も手っ取り早い方法です。
そのためには日本的システムをグローバル・スタンダードに合わせる必要がありますし、日本語以外の言葉で話し掛けられてもおどおどしない度量が必要です。イギリスもアメリカも移民を受け入れてきた歴史がありますし、それもシステムとしての普遍性を保証している一因と思います。
前回お約束した宗教の研究は次回中間総括までの継続課題としますが、また今回同様に結論がでないかもしれません。追伸:今日からクリスマス・新年休暇で1月3日まで日本に帰るので、ヨーロッパ紀行文はしばらくお休みです。
来年を楽しみにしていてください。
[1] 歴史を振り返るとこの法則は概ね妥当な仮説のように思います。そこで「何故、辺境が有利になるか」の問いに対しては「拡大の余地があるから」ではないかと思います。アメリカのフロンティアが米国人の心理に大きな影響を与えたことはよく議論されていることですし、中心部は周囲を取り囲まれ拡大発展することができません。