そう宣言してバスは出発。その後は参加者同士の会話に委ねる。そこは来た時と同じだ。参加者は小学校にいた時と同様に饒舌になった。あちこちで色んな会話が聞こえる。
「俺は豊中あたりやないかと思うねんけど」
「千里かも?」
「いや、京都方面に向かって守口とか」
今まで滞在していた小学校が実際どこにあるのかが話題となっていた。そのうち、そうした詮索は夢が壊れるからやめとこう……ということになりこの話題は終了。
昔の思い出話へと話題は移った。わいわいがやがやの会話のうちにJR大阪駅に戻ってきた。
そこで参加者から飛び出したのが「いやあ、楽しかったですわ。タイムマシーンでの旅行はええもんですね。よくぞ発明してくれはりました」という賞賛の言葉。
「そうそう。一番嬉しかったのは、無事、現代に戻ってくることができたことや」
タイムマシーンでの旅行を前提にしたそんな感想が参加者の大きな笑いを誘った。その様子を見ていたこのツアーの発案者の涼平の心には大きな満足感が広がっていた。ああ、喜んでもらって良かった。
タイムマシーンって、ホンマでっか?
いや、それはもう皆さん、もうお分かりやと思いますけど、その前に「寿限無号で行く! タイムマシーン思い出ツアー」を企画した男のご紹介へ。
塚田涼平、五十七歳独身。結婚経験もない。真剣に結婚を考えた相手もいたことはいたが、こればっかりは相手のあることでうまく行かなかった。恥ずかしながらまだ独身で……と、四十代半ばまでは言っていたが、そんな年齢も過ぎた。周りには同じような独身者も数人おり、今は特に気にしていない。
仕事は一応まっとうにやっている。勤務先は大阪に本社を置く芸能プロダクション。大手ではなく中小の部類。俳優、タレント、リポーター、ナレーターなどをマネジメントしている。結構手広くやっており、マジシャンやピン芸人、落語家も所属している。
涼平はそんな芸能プロの勤続二十七年のベテラン社員で、その社内的地位、社内的評価は年数に比例して高く……と言いたいところだが、むしろ低い。かと言って社外的評価が高いかというとそうでもない。
何か大きな実績を残してきた訳ではないのだ。自分の手で育て上げたタレントを有名にしたというような経験は皆無。こちらのほうが独身でいるよりお恥ずかしい。すいません。