候補者たち
とことことこっと足音が部屋の前で止まった。
「遅くなりましたー」
ふわふわの髪の毛、長いまつげ。大きな黒目には無数の光が宿っている。岩崎の肩ほどの小柄な男だが、オーラが、ま、まぶしい。
「実物、かわいいっ」
西田先輩と宮内先輩の声が一オクターブ上がる。選挙前から俺でも知っている。地方雑誌でモデルをやっている、二年D組、越智秀介だ。土居が声をかける。
「あんたも当選しとったんか、越智えーっと」
「秀介。同じクラスになって半年も経つんだからさ、覚えてよー」
越智は、漫画でしか見たことのない、頬を膨らませた怒り顔を見せた。まるでアイドルだな。どう接したらいいか分からない。
「よろしゅうなぁ」
土居は、越智の背中をばしばしと叩いた。土居のこういう、ボディタッチが多いのも、苦手。
「さ、これで全員揃った?」
西田先輩が一同を見渡すと、前副会長がメモを開いた。
「いや、あと一年生がもうひとりいるはず。迷ってるのかな」
生徒会室は部屋にたどり着く前に、分厚い扉と短い廊下があるというおかしな構造ではある。しかし、分からないなら誰かに聞けば済む話だろ。先輩を待たせるなんて言語道断だ。
すると、戸の陰から足元をずるずると這うような声がした。
「あのー、生徒会室ってここっすか」
「ああ、よかった。迷子になったかと思ったよ。野間くん、だね?」
前副会長がメモと照らし合わせたそいつは、だらりと生徒会室に入ってきた。学ラン全開、ワイシャツのボタン二つ開け、そしてそのシャツの裾は完全にズボンから出ている。後輩のくせに態度は悪いし、俺よりでかいし、すでに癪に障る。
「どうも」
見下ろすんじゃねえ! 俺の怒りをよそに、西田先輩は俺たち新役員を並べた。