第3章 スピンラザ投与前

2 大学受験を目指して

守山高校でのかけるくんの成績は、クラスで3位、学年でも10位以内に入る成績でした。守山高校ではほとんどの生徒が就職か専門学校で、大学に進学するのは10人前後でした。守山高校の偏差値は40でしたが、かけるくんは手足が不自由なため点数が取れないだけで、私はかけるくんの実際の学力は偏差値50〜55くらいあると考えていました。

名古屋地区でいうと、中京大学や名城大学が志望校になります。しかし、大学への進学を希望したのが高校3年生の春だったので、受験の準備に十分な時間が取れないことが問題でした。

各教科の一番難易度の低い受験用参考書を購入し、受験勉強を始めました。字はゆっくりであれば鉛筆を使用して書くことができます。ただし、鉛筆が届く範囲が狭いので、記入する場所を変えるときは紙を動かしてもらう必要がありました。自分でページをめくることもできないので、参考書の次のページにいくときには、お母さんやおばあさんにめくってもらいました。

また、筆圧も非常に弱いので、HBの鉛筆では薄くて見えません。そのため、2Bの鉛筆を使っていました。字を書くスピードも遅いので、紙に書くことを最低限にしぼって問題を解くように工夫をしていました。

かけるくんは、学校の授業レベルの内容はしっかり理解できていました。しかし、受験レベルの問題となると、今までに見たこともない問題も多かったので、かなり苦戦していました。最初のうちは、参考書を1ページ解くのに1日かかるといった具合でした。私は1年浪人してもしっかりと学力をつけて大学へ進学するのが良いと考えていました。

最近はどの大学も学生を集めるために、推薦入試やAO入試などで学生を早く集めようとしますし、難関校以外では受験科目を減らして志願者を増やす大学が増えています。その結果、十分な学力がないまま大学へ進学してしまい、入学してから大学の授業が理解できない学生が増えているという問題が起きています。私は、かけるくんにはそのようになってほしくないと考えていました。

あるボランティア団体のイベントも一段落がつき、受験勉強に集中する時期となりました。かけるくんのお姉さんは、私立大学の中国語学部に在籍しており英語も得意でした。そのため、かけるくんのお母さんは、かけるくんにお姉さんと同じ私立大学に進学してほしいと考えていました。

しかし、私はかけるくんが外国語には向いていないと思いました。そもそも、かけるくんは算数と理科、社会が好きで、国語と英語は苦手でした。また、かけるくんは男の子によくある口下手で、高校での英語の成績も良くありませんでした。そのため、外国語を使う仕事よりも研究者など自分のペースで仕事が進められる仕事のほうがかけるくんには向いているのではないかと考えていました。