両親との再会
それから一週間が過ぎたある日。俺の下に珍しい客が来た。
「元気にしてたか?」
俺の両親が来た。
「野菜たちとの勝負の毎日だよ。それ以外は有意義に過ごしてる」
「そうかあ。田舎だって聞いていたが『ド』が付くほどすごい場所だなあ」
「まあな」
「俺はもうこんな場所住めんなあ。年を取ったら足腰が弱くなってなあ。その点、お前はいいなあ。十分体を動かしてるから、年を重ねても体の自由を奪われないかもしれんな」
「それで? 今日はなぜ俺の下へ?」
「この前同窓会に行ったんだろ? 佐藤先生だっけ? 電話をもらってなあ。おまえのこと気にかけてくれてたんだよ。だから俺もこの目でお前の奮闘っぷりを見たいと思ってさ。母さんを説得して今日二人でやって来たんだよ」
「そっかあ。気遣ってもらってありがとう。母さんもしばらく見ないうちに老け込んじゃって」
「お前に言われたかないね。私も惨めながら努力はしてるんだから。でも、お前も結構苦労しているようで。でも、顔は活き活きしてる。精悍な顔つきだよ」
「ありがと。母さん」
「ところで。噂で聞いたんだが、お前付き合ってる人がいるんだって?」
「ああ。そうだよ」
「独り身か? それとも……」
「バツイチ。子供もいる」
「初婚でないなら止めとけ。お前にそんな覚悟があるのか?」
「そりゃあ覚悟してるさ」
「今は独り身だからいいが、生活していくのは並大抵なことでないぞ?」
「分かってるって。親父は俺たちの結婚に反対なのか?」
「そうではない。ただ、相手は一度失敗しているんだから、これ以上相手に苦労させたくない。ましてやお子さんもいるならなおさらだ」
「苦労しない人生など生きている心地がしない。俺は同窓会で彼女と再会し、本当に良かったと思ってる。同窓会に行かなければ、このまま誰にも看取られることなく孤独死を迎える人生だったかもしれない。だからこそ諦めたくないんだ。そのことだけは分かってくれ。親父」
「分かった。責任を持って付き合えよ。向こうの親御さんに淡い期待を抱かせることだけは絶対にするなよ」
「母さんも同じ意見だよ」
「分かってる。でも、そう生きていこうと決めたんだ。一度きりの人生だから後悔だけはしたくない。ご両親ともよく話してみるよ。だから、陰ながら応援してくれ」
「分かった。俺からも母さんからも、もう何も言うことはない。応援する」と言い、バッグの中からおもむろに封筒を出した。
「困った時、この封筒を開けなさい」
「ありがとう。今日泊まっていきなよ。久しぶりに乾杯しようぜ、親父」
「嬉しいねえ。お前と飲むのは成人式以来だな」
「じゃあ、台所借りるよ。酒のつまみでも作ってあげるから」と母は立った。
久しぶりに再会を果たし、言いたいことも包み隠さず話し、三人の夜会?は遅くまで続いた。
向こうの親父さんが将棋好きだということを話すと、「俺が相手してもいいぞ。いろいろと教えてやる」と親父が言ってくれた。久しぶりの両親との再会。母さんの味。親父と酌み交わす酒。その全部が俺の心を満たしてくれた。
翌朝両親を駅まで送り、また変わらない日々を過ごす。季節はもう真冬へと移り変わっていた。