両親との再会
(一時間後)
『だんだん戦術が分かってきたみたいだね』
『そうだろ? ここで昼休憩入れようぜ。休憩後、あと三戦やって、今日のところは終わりにしないか?』
『OK。じゃあ、休憩後再エントリーね』
休憩後再び対局し最後の一戦を終えた後、電話をかけた。
「お疲れ~」
「お疲れ。竜治くんも疲れたでしょ?」
「久々にこんなに将棋指したから、俺も頭が疲れた」
「また明日もよろしく」
「なんとか集中を切らさずアドバイスするよ」
「今日は付き合ってくれてありがと。帰ったらスマホでも将棋してみるから」
「明日もあるしお前も疲れただろうから無理しない程度にな。焦り過ぎて却って体の調子崩してもよくないから」
「ありがとう。じゃあ、今日はゆっくり休むわ」と、俺はゲーセンを後にした。
翌日。昨日に引き続きゲーセンに行き、竜治くんと対戦した。結果は全敗。まあ当然といえば当然の結果だが。
「焦っても仕方ない。ゆっくり対策を練ろうぜ」
「でも、俺は彼女と早く結ばれたいから。スマホは毎日、ゲーセンは週イチで来るから。これからもよろしく頼んだよ」
「お前の情熱には負けるよ。週末またやろうな」
それからしばらくの間、平日は畑仕事、夜になるとスマホで対戦、日曜日は『竜治先生』とのマッチアップと、さすがに頭も体も疲弊していた。それでも彼女との婚約を諦めまいと我が身を奮い立たせていた。
月日が経ち、毎日野菜とスマホのにらみ合いを続けているうちに、将棋もみるみる上達し竜治くんを手こずらせるまでに腕を上げた。
「向こうの親父さんとは次で何戦目?」
「七戦目」
「そろそろ勝てそうじゃないか? 俺のアドバイスも的確にこなしてるし。婚約を賭けた最後の一戦を交わしてみては?」
「分かった。夕飯後に彼女にメールしてみるよ。ありがとう竜治くん。俺のためにこれまで付き合ってくれて」
「水臭いこと言うなよ。仲間だろ? 当たり前のことをしただけ。そもそも親父さんには勝ってないんだし、勝ったら野球部のメンバーを呼んで祝杯でも挙げようぜ」
「ありがと。俺頑張るから」
夕食を食べ終えた後、彼女にメールを入れた。
『今度の日曜日、親父さんと最後の勝負を挑みたいんだけど』
『分かった。お母さんに連絡してみるから、折り返しメールするね』
十分後。再び彼女からのメール。
『OKだって』
『じゃあ行くよ』とメールを打ち終え、お風呂に入り布団に入った後、いろいろな想いを巡らせていた。
(将棋に勝てたとしても、果たして簡単に結婚を認めてくれるだろうか? また別の方法で説得できることはないのだろうか?)と、いろいろと考えたが答えはまとまらず、今晩はゆっくり休んで明日に備えようと、すぐ目をつむり寝た。