思春期の森 作・松田文雄
生まれた町から離れ、自分の住む町を見つけるために、「森」を抜けなければならない。
1 生まれた町
親のそばで、見守られながら無邪気に安心して遊ぶ子ども。
遊びのなかで、好奇心を磨き、冒険を企て現実の痛みと喜びを知る。不安と安心は親の眼まな差ざしに映し出され、さまざまな体験と結びついていく。そのたびに、親の視線に頼りたい気持ちと行動の是ぜ非ひを尋ねる。
いつの間にか楽しくも短い季節は移り、もう少しそこにいたいとか、遊び足りないとか、もう少しそこで遊んでなさいとか、一切容赦なく、急速に、そして、内側から湧き上がる抗しがたいエネルギーに導かれ「森」へと誘われる。
性。
2 森への誘い
次第に外の景色は薄れ、内の景色は鮮やかとなる。彩りは森となり、心が森となる。その子どものなかに自分の森が膨らむ。
親の住む町に引き返したい気持ちや駆け抜けたい気持ちや、変わっていくことの不安と喜びに戸惑う。
気持ちは内に向かい、己と向かい合うことを余儀なくされる。森の奥深く、かつての眼差しを感じながら。一歩を踏み込むことになる。
3 森のなかで
身体も心も多くの出会いをする深い森。
一度入ると出口も入口も、己がどこにいるのかもわからない。
同じさまよい人と声を交わし、ひとときの間、独りぼっちの怖さが安堵に変わり、不安からの退却から対決を決意する。そして、大勢のなかにいながらも孤独を感じ、再び森をさまよう。
初めて見る動植物に驚きながら、親しみを感じはじめる。やがて、その出会いのすべてが己のなかにあること、自分の森のなかにあることに少しずつ気づき、自分自身と自分以外の多くの人の存在を知る。
森の半ばまで来ると、自ずと歩き方がサマになってくる。その頃から、多くの獣けもの道みちが見えてくる。
その先にある、進むべき道を想像し、幾とおりもの分かれ道に戸惑い、足跡をつけながら、自分の歩き方で無意識の森から意識の光のなかへと進む。そのうち、住むべき町へとつながる出口に差し掛かるのである。