【前回の記事を読む】【小説】会社を辞めますー社会のルールを犯すと社会の秩序をはみ出てしまうことになる

未来への手紙と風の女

だけど、理不尽なことには我慢できなかった。ルールを守らなければいけないなんて、誰でも心の中では、わかっている。だが、時には、このルールという名の下に隠された、あるカテゴリーに疑問を抱くこともあるだろう。これが、人の個としての価値観なのかもしれない。人は、このルールの縛りから、時には逃げたくなる。そのとき、新たな感情と想像が創造へと変わり、芸術となるのか。

あるいは、それまで誰もがなし得なかった新たな発見を引き寄せるのか。

僕にはわからない。わからないけれども、発想を大事にする、ということは大切だろう。

今の会社は、個人の発想を大事にしてくれる。具申した意見が全て通るというわけではないが、しっかりと検討はしてくれるし、形を変えて採用されることもある。

通勤ラッシュに揉まれ、疲労困憊して会社にたどり着き、全開モードで仕事をする、そういう生活にはもう戻れないし、会社もそういうことは要求していない。

ただ、僕の中に秘められているだろう能力を時々発揮してくれと言うだけだ。大方の社員も同じような待遇で、社員同士が何かをするということはあまりない。組織のルールに雁字搦めにされることはないが、反面、僕は無性に人恋しくなることがある。

社員同士が付き合いをすることがない今の会社では、息が詰まりそうになることがある。

一人でありたいのに、一人であることに苛立ちを覚える。

風の女に惹かれるのは、このような葛藤から願望や欲望が生まれるからなのかもしれない。そもそも風の女の正体もわからない。気まぐれに僕の目の前に現れては、突然、風の女は消える。

僕の夢の中を駆けめぐり、遠い日の記憶を呼び覚まさせようともする。

風の女はさまざまに姿を変えて、僕の頭をゆさぶる。