【前回の記事を読む】『獲物は喰いついた』旦那の不倫を暴くため、友人と結託し…
のぞみの処女喪失と結婚
高校を卒業すると、希代美はすぐに故郷を捨てた。都内の小さな問屋にどうにか事務職を得た。希代美は一生懸命働いた。会社とアパートを行き来するだけの生活。とにかくお金を貯めたかった。一人で生きていくためにはお金を貯めなければいけないという強迫観念があった。
預金通帳の残高が大きくなっていくのを見るのが、希代美の生き甲斐になっていた。そんな折り、希代美は仲谷春樹と出会った。春樹は店に出入りする営業マンだった。春樹にはテレビのアイドル歌手に似た華やかさがあった。春樹から何度も誘いをかけられたが、希代美は断り続けた。
それでも春樹はミカンの皮をむいていくように、希代美の心の殻を一枚一枚丁寧にはがしていった。春樹には今まで考えていた恐い男のイメージとは違う何かがあった。その優しさに、希代美はしだいに仲谷春樹に惹かれていった。仕事を終え駅へと向かう希代美に、春樹は偶然を装って声をかけた。
「やあ、希代美ちゃん。今お帰り?」
春樹にとって女性を口説くことはゲームのようなものだった。持って生まれた才能と積み上げてきた経験から、春樹はこのゲームで高い勝率を残していた。誘っても誘っても応じてくれない希代美は、春樹にとって難しくもやりがいのあるゲーム相手だった。
「今日は僕の誕生日なんだけど、誰にも祝ってもらえないんだ」
「嘘ばっかり。仲谷さんはモテてモテてしょうがないでしょ」
「そんなことないですよ。困っちゃうんだよね、みんなからそんな風に思われて。僕は好きな女性ができると他の女性なんか目に入らなくなるタイプなんだ。もう一筋。で、今一筋なのが希代美ちゃん」
「また、冗談ばっかり言って」
「冗談じゃないよ。やだなあ、希代美ちゃんまで。僕を少しは信じてよ。まあ、いいや。とにかく今日だけは付き合ってくれよ。お願いだから」
「しょうがないわね。じゃあ今日だけですよ」
男擦れしていない希代美を思いのままにするのに、大して時間は必要なかった。レストランを出た後、家まで送ると言ってタクシーを拾い、そのまま希代美のアパートの部屋に上がり込んだ。部屋に入るとすぐに春樹は希代美を抱き締めた。