【前回の記事を読む】おるすばんが退屈な女の子。絵本を投げると、「いたい!」
おるすばんなんてだいきらい
わお!
みきは、テーブルの前にいる思い出深いどうぶつたちに、目をきらきらさせて見とれてしまいました。
まんなかにいたハリネズミのココが、いっぽ前にすすみでました。
「はじめましてじゃないわね。いつも絵本を読んでくれてありがとう!」
ハリネズミは、背中のトゲをいつもよりぴんとはりながら、あいさつをしました。
「あのね、ちょっとそうだんしたいことがあるの。さっき、みんなとはなしあいをしていたから、ここにくるのにちょっと時間がかかっちゃったけど。ごめんなさい」
みきはおもいました。いたい! っていった声は、ハリネズミのココだったんだ。ちょっと、おでこにきずがあるし、さっき聞こえた声とそっくりだもの。でも、今ではそれもどうでもいいみたいね。なんだか、とってもなやんでいるみたいだわ。
「というわけなのよ」
と、ココがいいました。
「え?なんていったの?ごめんなさい、とちゅう聞こえなかったの。ほんとにごめんなさい!」
みきは気になりだすと、ちがうことを考えてしまうくせがありました。じつは、ココもそうでした。みきのことばを聞きもせず、つまり聞こえなかったわけですが。ココは、たんたんとはなしを続けました。
「そこで、みきちゃんにそれをやってもらいたいの。よろしくね。それじゃあ、みんなかえるわよ!」
ぜんいん「はーい!」と返事をしました。
「まって、まってよー!」
みきはさけびましたが、だれもその声を聞くものはいませんでした。まるで、絵本までもがあわてているかのようにページが開き、虹のシャワーのように、絵本の中へと、みんなかえっていってしまいました。静かになりました。絵本がぱたんと、テーブルの上でたおれました。
「いっちゃった……」
さっきのできごとが夢のように感じる静けさでした。
みきは、おそるおそる絵本を開いてみました。ふつうの絵本でした。おかあさんといっしょに見たときと変わらない、うごかない絵です。みきは、ココのおでこを見てみました。たしか、このへんだったような。
ページをパラパラとめくりました。みきは、おどろきました。ココのおでこにきずがついていたからです。でもそれはきっと、なんどもなんども読んだからでしょう。少しやぶれかけたしわのようにも見えます。
ココ、ごめんなさい。もう絵本をなげたりなんてしないわ。それにしても、わたしにお願いしたいことってなんだったんだろう。いくらはなしかけても絵本がうごくはずもしゃべるはずもなく、耳をすましてみても、時計の針の音がいつもより大きく聞こえてくるだけでした。
おかあさんはまだかえってきません。みきは、このふしぎなできごとを、はやくおかあさんにはなしたくてしかたがありませんでした。
「ほんと、おるすばんなんてだいきらい」
みきはつぶやきました。みきは、もういちど読んでみようと、『ハリネズミ・ココのおひっこし』の絵本を手にとりました。そのとき、ちょうどおかあさんがかえってきました。
「おかえりなさーい!おかあさん、あのね……」
「ジャーン! みき、さっき買い物に行ったらね、みきのだいすきなドーナツがあったのよ。あまい木の実が上にのってるやつ。今出すから、いっしょに食べましょ」
みきは、うれしさのあまり、絵本をぱたんととじると、そのままココのいったことばもすっかり忘れてしまいました。さて、絵本の中では……。