ALS 

その日の昼、担当医と自宅介護についての簡単な懇談会があった。大学病院から数えて、すでに三人目の主治医になる。整形外科医院の病院を入れれば四人目になる。今度はスポーツ刈りで白髪混じりの、さばさばとした先生だった。

きぜわしい先生で、風貌が示すように、食にはこだわりがないのか、コンビニのおにぎりをそそくさと食べて、外来の担当でないときは入院棟の一階と二階の患者の周りを歩き回っていた。患者間では、その風貌のままの「ゴマジオ先生」と呼ばれていた。

私が面接室に入って挨拶をすると、「はい、どうぞ」と無理やりニッコリ笑って、椅子に座るように促された。そこまではいいのだが、私が席に着くか着かないうちに、自分の書類に目を落として喋り始めた。

「自宅は夫婦二人でお住まいでしたっけ?」

私は慌てて腰かけて「はあ、そうなんです」と答えた。

「なるほど。それならば気合を入れなきゃ、だめですよ」

「気合?」

「そう。ここを退院したあと」

何も考えてないと思われたのか、あきれ顔で言われた。

「誰か手伝ってくれる人は?」

私は首を横に振った。

「そりゃ、大変だ。日常の買い物は、訪問ヘルパーがいる間の三十分で済ませるという手もありかなと思います。大便が出る時間もある程度コントロールできて、訪問看護師がやってくれると思います。まあ、お腹の具合しだいで、上手くいかないときもあるとは思いますよ。いずれにしても、退院を試みるのは、今ですよ。なるべく早いほうがいい」

退院が遅くなればなるほど病状が進み、それだけ介護に手が必要になる。この機会を失えばもう駄目だろうと私は思った。率直な物言いで、自分のペースで相手に語りかけて、話を進めていくところがこの先生の特徴のようだ。相手の様子をあまり気にしないところも特徴と言えば特徴であった。

「ご存じのように、この病気は常に悪化しています。早い方が、より安全ということですなぁ」

「……」

無言の私にかまわず続ける。