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恋愛観
意に反して啓子の方から陽一に働きかける結果になってしまった二人の愛のあり方について、啓子は、自分の愛に対する考え方に逆らってしまったと自分を責めていた。
「私は人を好きになった場合、冷静すぎる程冷静にそれを否定してかかるのです。私は意外と惚れっぽい所があるので結構、好きになった人はいましたが否定してしまう気持が勝っていて、それも本能かもしれません。だから貴方を好きだと気が付いてから一生懸命に否定をしました。
でも貴方はあまりにも魅力的でどんどん心に入り込んできてしまいました(私の勝手でね)。
大抵の人の恋愛を観察していると、まず、一方の気持が強くなって相手がそれにほだされるという形のように思えます。双方がこの人でなければという強い気持を持ち合ってという事は少ないのではないでしょうか。
本当の恋愛は双方が同じように魅かれ合うべきだと私は思います。勿論付き合ってみなければ相手の事がわからないでしょうし、付き合っているうちに好きになるのが悪いという訳では全くないのです。
私自身、男性から誘われて、こういう事から、恋が始まるのかもと思わせられる瞬間は二、三度ありました。でも、私の心の中には片道であるにせよどうしてもこわせない道がありました。その道がなかったとしても、強く魅かれたのでない人との男女付き合いというのは本能的にがまん出来ません。
そして、もしかしたら沖田さんが私の気持を知って同情して付き合ってくれているのではないかと、少しばかり否定的な気持になってしまった事も事実です」(41年10月 緒田啓子)
「貴女は最初に会った時以来常に、恋愛はラインであるべきでお互いの相寄る魂云々等、恋愛至上主義的な意見でしたね。しかしお互いが好意を持っている状態ならば、その状態を肯定出来るでしょうか。
お互いに好意を持っていても行動に出さず、むしろそっけないそぶりをしたりする場合もあります。しかし何かのきっかけでお互いがわかってきたら、もっとお互いを知ろうと自我をセーブしてゆくべきではないでしょうか。
貴女には今まで、何か近寄り難くそのチャンスもなかった。だから、貴女に初めて声をかけて喫茶店に来てくれた時、非常にうれしかった。本来僕は女性に対して、特に自分が好ましく思う女性に軽々しく声をかける事など全く出来ない男です。
貴女は人に愛される性格で本当に可愛らしかった。そんな素敵な女性に僕が好意を抱く事は論外と思っていました。もしもC先輩の強引ともいえる口添えがなかったら、僕はとても行動出来なかったと思います。だから断わられるのを覚悟で行動したのです。
しかし貴女がまっすぐに僕に応えてくれたので、まるで夢を見ているようでした。僕は以前にも増して貴女に対する好意を強く感じます」(41年10月 沖田陽一)