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第2部 全身ジストニア
ジェーンのサポートも空しく、腰痛、股関節の痛みはひどくなり、足を引きずって歩くようになる。
2009年8月、カリフォルニア州立大学の卒業を間近にして、私は帰国して大学病院に入院し、「臼蓋回転骨きり手術」を受ける。
この手術により、健康体に戻り、9月大学に復帰し、12月に卒業する予定だった。しかし、この手術は10年間にわたる、過酷な闘病生活の序章だった。
2009年9月リハビリ病院における治療の効果はまったくなく、下半身どころか、全身、金縛りにあったように動かなくなった。2009年10月大学病院に再入院。主治医に対する母の問いは切羽詰まっていた。
「先生、リハビリ病院の治療で歩けるようになると思っていたのですが、良くなるどころか、下半身が動かなくなってしまいました」
「左足から右足までの変形を治す手術をしましょう」
「また、手術ですか?」
「今回は受動手術といって内視鏡を使用して行いますので切除はしません。関節の袋(間接包)の固くなった部分を内視鏡で確認しながら、専用のハサミで切り込みを入れ、可動領域を拡大。変形を治します」
「今度は大丈夫ですか、本当に治るんですか」
「残念ながら確約はできません。私はお嬢さんの病状を見てきて、“ジストニア”だと、見ております。ジストニア(神経難病)は中枢神経系の障害によって起こる病気です。脳、神経系統のなんらかの障害により、持続的、または随意的に筋肉が収縮したり、堅くなったりする難病性の病気です。従って、整形外科の処方だけでは対処できません。ジストニアに掛かりますと、ADL:activities of daily living(食事、移動、排泄、入浴といった日常生活基本動作)が大幅に制約を受けるようになります。ピアニストが、急に指が動かなくなったとか、スポーツ選手が突然手足が麻痺してプレーできなくなった、歌手が突然、声が出なくなった、という事例があります。ジストニアは20世紀の初めは精神病の一種ともいわれておりました」
「……」
精神病という言葉に私も母も凍りついた。母が入院の準備をしてくれた。洗面用具や下着、この中に紙おむつも加わる。母の頬から一滴、涙がしたたり落ちた。
第3部 未央の日記(2010年)
11月の受動手術の結果は思わしくなかった。
大学病院脳神経内科(以下、脳内)で遺伝子検査を行う。瀬川病、パーキンソン病といったジストニアと類似した病気の可能性も探る。結果、ジストニアの可能性が強まる。
大学病院で2010年を迎える。
未央の病気はなに……
2月1日
未央の病気はなに……
どうして? どうしてわからないの?
ホントに治るの? もう……ダメなの?
原因不明で終わるの?
治療法もわからず終わるの?
怖いよ……。助けてよ……
「治る。必ず治る!」って言ってよ
病気がわからないままただ病状が悪化していくのが怖いよ。どうすればいいの
悔しくて
悔しくて
涙が止まらない
2月2日
この涙がムダな涙であってほしい
ウソだと信じたい
ウソって言ってくれるのを待っている
ムダな涙をたくさん流すから……
ウソって言って
そしたら、また笑顔になるからさ
病気が見つからなくて……見放されるんじゃないかって……
怖くなる……
そしたら未央どうすればいいんだよ
見放されたらどうしよう
怖いよ