「現実の世界で、見事にやってのけた有名な犯罪を知ってますか。帝銀事件ですよ」とは言っても、これはあくまでも私の推理だが。
先ず犯人は自分が最初に飲んで信用させ、二液に分け、舌を使って巧く飲ませている。青酸が酸と反応するのを知っていたから。口の中にも酸が有る。だから虫歯に成る。この酸と反応してしまっては、人は直ぐ苦しみ出してしまう。それを見たまだ飲んでいない人が、続けて飲むわけが無い。だから歯に当たらない様に、巧く舌を使って飲ませたわけだ。
普通の画家がこんな事を知っているわけが無い。だから平沢貞通は白で、それを知っているからこそ、歴代の法務大臣が、死刑執行命令書にサインをしなかったんだと思っている。
「……、じゃあ、部屋で殺して、第一発見者を装うってのは、どうです」
「良く有るパターンですね。でも今は難しいですよ」
私は手に持ったアールグレイを時折飲みながら説明を続けた。先ず外部からの侵入者に見せかけるのが難しい。日本の鑑識は優秀だから。それこそ一回こっきりの素人では、必ずボロが出る。さらに今は至る所に防犯カメラが有る。
現在の捜査は防犯カメラ無しでは成り立たないほど、重要なアイテムに成っている。死体から死亡推定時刻を割り出し、近隣の防犯カメラのその時間帯の画像をつぶさに調べる。もし不審な人物が居なければ、当然第一発見者の夫が一番怪しいという事に成る。