胸騒ぎ
小春日和の午後、私は職場の自室で書類の整理をしていた。外の気温は低いが、西向きのこの部屋は午後の柔らかい日差しが微睡の時をくれる。その時、一通のショートメールが着信した。見覚えのない携帯番号だった。
「相原てつやです。突然に失礼します。お元気でしょうか? 森本君に連絡先を教えてもらいました。私は元気にしております。」
「相原てつや」45年前の初恋の人、私が16歳から24歳まで付き合った初めての「男(彼氏)」、同じ高校の一学年上だった。私が所属する美術部の部室によく出入りしていた。女子の多いクラブにはどこへでも行っていたように記憶している。茶道部は部員がいなくても勝手に茶室に出入りしていたようだ。
初めて彼を見たのは私が美術部に入部してすぐの頃だった。美術室に元気よく入って来て新入部員達を見てこう言った。
「やあ、みんな元気かい、部活動に励んで高校生活を大いに楽しんでくれたまえ。困ったことがあれば、俺が相談に乗ってやるから」
私たちはみんなポカーンとしていた。……この人誰? ……部員じゃないよね。その後すぐに彼は美術室を出て行った。「変な人」と他の新入部員たちは言っていたが、私はなぜか彼のことを素敵だなと思った。そして、時々美術部をのぞいてくれるのを楽しみにしていた。
私たちが付き合い始めた時のことはよく覚えていないが、別れた時のことははっきり覚えている。私が看護学校を卒業し、初めて病院勤務をしたすぐの頃だった。
「もう会えない?」
「お前が婦長(師長)になったら会ってやる」
という会話から37年になる。
私は師長にもなり、今や部長にまでなってしまった。37年前に捨てられたけれど、私はずっと彼のことを想っていた。捨てられた腹いせにすぐ別の男と結婚したが、腹いせ結婚など続く訳もなく間もなく離婚した。その後また別の男を作り、結局バツ2になってしまった。それでも彼のことは心のどこかにいつもあった。