どれくらいの時間が経っただろう。
駅の端っこで座り込んでいる女子学生に気がついて声を掛けてくれる人は、誰一人いなかった。周りからは、世間からはみ出した女子学生と見えるだろうか。世間に弾かれたと見えているだろうか。それとも、自分は今誰にも気に留められない、まるで見えていない存在なのだろうか……。
とてつもない疎外感が、佳奈を圧迫する。盲目のあの彼は、毎日こんな思いをしているのだろうか……。そんな綺麗事を言っても、自分だってついさっきまであれこれ気づいていないそっち側にいたのだ。つくづく勝手だと思った。
それでも後ろ向きになるのはもう、うんざりだ。悔しければ、大声で泣けばいい。倒れそうになったら、誰かの手を掴めばいい。怖くない。
自分を無視するのは簡単で、それに慣れていく方がもっと怖い。怖いと思うのは、その答えに自信がないからだ。目立つ事を避け、右へ倣えと周りに合わせて行動していた自分も結局、パブロフの犬だった。助けてと声を上げられる人の方が、本当は強いのだ。誰かが助けてと差し出した手を、今度は自分から掴む番だ。
何してたんだろう、私、今まで……。何してるんだろう、私、今……。
制服が冷たくなってきて肩が震える。佳奈は一番の味方である自分で、自分を、両腕で抱き締めた。いつからか考える事をやめてしまった、今までの自分とけりをつける為に、少しだけ一人の時間が欲しくて佳奈は立ち上がり歩き出した。
雨は少しずつ、激しくなっていた。
駅の入り口に突っ立っている佳奈に、押し寄せてくる人々が、不機嫌そうに佳奈の顔を横目で見ながら肩にぶつかり改札へ向かう。その衝撃で、堪えていた涙が落ちた。
前から来る人達は皆んな俯いて、重い足取りで行き来している。その顔は無表情で仮面を付けられたようで、誰もそれを外そうとしない。そんな大人に、なりたくない。
佳奈はゆっくりと駅の階段を下りて、さっきの駐輪場を見た。暫くして、何かを決心したように鞄から携帯を取り出して電話をかける。
「あ、お母さん? 帰るのもう少し遅くなる。駅に着いたらまた電話するから迎えに来て。大丈夫、そんなに遅くならないから」
そう言って電話を切るとまっすぐ顔を上げて、佳奈はもう一度駐輪場まで走って戻り、黄色い点字ブロックの上に飛び出したままの自転車の列を直し始めた。