【前回の記事を読む】シアトルで病院外での心停止傷病者の六割が救命されているワケ

スキャンダルの真相

同じ頃、舞子は、米国シアトルのタコマ空港に降り立った。夕方に日本を出発し、九時間のフライトを経て現地時間の午前九時に到着する。中央ターミナルビルのエスカレーターを上がったところで待っていたのは、大学時代の恩師、鹿島瑞穂だった。

「赤倉さん、お久しぶり! 救急隊員になったんだって?」

瑞穂は大学のゼミの指導教授であり、かつては救急隊長として働いていたという、救急救命士の大先輩でもある。

「大学の卒業式以来だから……ほんと、三年ぶり!?」

瑞穂はそう言った。しかし、昨年の「全国救急隊員シンポジウム」で座長を務めていた瑞穂の姿を舞子は会場で見ていたので、あまり久しぶりという気がしない。確か、「女性救急隊員から見た救急活動の現状と課題」というセッションだった。

シアトル・ダウンタウンのホテルにチェックインすると、二人が向かった先は、シアトル発祥の世界的に有名なコーヒーショップのカフェだった。コーヒーを焙煎する香りが店中に漂っている。

「今回の目的はね」

瑞穂がパソコンを立ち上げ、約一週間のスケジュールを確認する。

「今後、ウチの大学で、社会人の大学院生を受け入れる予定なの。つまり、現役の救急隊員や救急隊長クラスの救急救命士を大学院に入れて、救急現場学を構築していく。そのプロジェクトの中に、シアトル研修を組み込みたいの。そこで、現役救急隊員のあなたから見た感想をレポートさせてほしいの」

「日本の救命率を上げるために、ですよね」

舞子は、いつも講義で瑞穂が言っていたことを思い出し、尋ねた。

「正確に言うと、社会復帰率。そこがゴール」