【前回の記事を読む】入国審査で必死の交渉!理由はまさかの「お金が使いきれない」
民家に泊めてもらってシリアンダンス トルコ(セルベガーゾ)→シリア(バブ・エル・ハム)
一九七四年一月二六日
イスタンブールを出発してトルコの地中海側を南下して、点在するギリシア・ローマ時代の遺跡をバスで巡る。今日はトルコからシリアに行くべく、イスケンデルン(Iskenderun)からミニバスに乗ってアンタクヤ(antakya)へ。さらにミニバスで国境の町セルベガーゾ(Celvegözü)へ。途中で乗客は全員降りてしまって、国境に行くのはわれわれ二人だけ。ミニバスはトルコとシリアの国境沿いを走るが、その国境には鉄条網を輪にしたのが延々と置かれている。
二人しかいない乗客のわれわれ日本人に、運転手がタバコを勧めてくれる。トルコ人にはわれわれのような貧乏旅行者をだまして儲けようとする人はいない。どこまでも親切である。街を歩いていても家や店から顔を出してこちらをのぞいたり話しかけたりするだけで、何かを売りつけたり、だましたりすることは決してない。日露戦争で極東の弱小国の日本が、当時の大国といわれたロシアに快勝したことから、それまでロシアに虐げられていたトルコは、それ以来日本と日本人に親近感をもっているそうである。
トルコの出国手続きは、出国カードに必要事項を記入して係官に提出し、パスポートに出国のスタンプを押してもらって終わり。実に簡単である。出国手続きが終わりリュックを背負って歩き出すと、トルコの係官がきて、国境には鉄条網で囲まれた中立地帯があり、シリアの国境までは七キロメートルあるから、ここで車をヒッチしたほうが良いと教えてくれる。親切な助言に従ってヒッチを始めると、運良く五分くらいで車が止まってくれた。しかし、目の前に止まった車を見て絶句してしまった。窓ガラスがないのだ。
アメ車の中古車だが、どういうわけか、車の前と後ろの窓ガラスがまったくなく、前の方の助手席側にはビニールを貼り付けている。そのビニールは走行中に風圧で破れるのを防ぐために三枚も貼っているので、助手席から前はぜんぜん見えない。そして、ビニールを貼ると前が見えなくなるので、運転席の前には何もない。とにかく止まってくれたお礼を言ってシリアの国境まで乗せてもらう。
走り出すと真冬の冷たい風が車の中にビュー、ビュー入ってきて、何もない後ろから抜けていく。今は厳寒の一月で、トルコの夜行バスではあまりの寒さに、暖房をつけているバスのフロントガラスが走行中に凍りつくくらいの寒さだった。運転手のおっさんは右手は上着のポケットに入れ、左手をビニールでぐるぐる巻きにして左手だけで運転している。そして帽子を被り、首には太いマフラーを巻きつけてオーバーコートに身を包んでいる。とんでもない車をヒッチしたものである。