【前回の記事を読む】黒猫にゃん太郎、必死の籠城!飼い主との再会は果たせるのか?
第三章 にゃん太郎の毎日
クロと呼ばれて別宅通い
ところがある日の午後のことだ。俺はいつものように小林さんちの居間に上がりこんで、座布団の上で眠りこけていた。
「まあ、にゃん太郎。どうしてここにいるの?」
という声に驚いて飛び起きた。なんと榎本さんの奥さんがたまげた顔をして、目の前にいるではないか。奥さんはたまたま小林さん宅の前の道を歩いていて、俺を見つけたに違いない。まずい!
「それはあの……」
と口ごもりながら、ここは逃げるに限ると思いかけていたら、榎本さんの奥さんと小林さんの奥さんで話が始まった。そこで逃げるのはそれを聞いてからにしようと思い、二人の会話に耳を傾けた。
小林さんの奥さん:「ひと月くらい前から毎日のようにうちに来るようになったけれど、お宅にも行っているのですか? ノラ猫なんでしょ。うちではクロと名前を付けて、可愛がっているんですよ」
「この辺では人気者で、皆、クロと呼んでますよ」
ってけげんな表情。
榎本さんの奥さん:「いいえ。ノラ猫ではなくて、うちで飼っている飼い猫なんです。にゃん太郎という名前もあります。私、今まで全然気がつかなかったわ。これまで大変お世話になりありがとうございました。猫に言い聞かせても分からないから、これからもお邪魔すると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
と申し訳なさそうな様子。
小林さんの奥さん:「まあ、そういうことなんですか。てっきりノラ猫と思っていましたよ。クロ。ノラ猫でなくてよかったね。にゃん太郎という立派な名があるじゃないの。いいのよ。これからもいらっしゃい」
と言って、俺の頭をナデナデしてくれたんだ。これでお墨付きがもらえた。
もう榎本さんちに気を遣うこともないので、小林さんの他にあと1軒か2軒くらい当たってみようかな。他のお宅では俺のこと何と呼ぶんだろうか。猫の名は毛の色で呼ぶことが多いから、やはりクロかな。楽しみだな。いや、ちょっと不謹慎だな。図にのり過ぎた。自粛しなければいけないな。
榎本さんの奥さんは和菓子を買って来て、お世話になるからと、改めて小林さん宅へご挨拶に行ってくれました。本当に申し訳ありません!
その日の夕食時、榎本さん夫婦が早速、昼間の出来事を話していた。
「猫は、飼い猫かノラ猫か、見た目には見分けがつかないよな。首輪でもしていれば、飼い猫か元飼い猫かは分かるけれどもね」
「それにしてもにゃん太郎はなかなかやるじゃないか。猫の分際で2軒の家をかけ持ちしているんだぜ。大した奴だよ。これなら、ノラ猫としても十分生きていけるな」。
ただ褒められているだけではないような。俺はノラ猫に戻るのはもう嫌だよ。
「クロと呼ばれていたのだろ。猫にとっては名前などどうでもいいものなんだな」
とも言っていた。何しろ榎本さんは、俺のにゃん太郎という名、いい名を思いついたと自慢していたからな。そうとうショックだったのかな。すると、榎本さんの奥さんから
「猫が自分の名前が分かるかどうか、ネットで調べてみたら」
という提案があり、早速、パソコンを持ち出しニャフーで検索することになった。