【前回の記事を読む】「恥ずかしい!」猫の俺が生まれて初めて味わった屈辱感

第二章 実はドジで臆病

犬に睨まれ物置下に籠城

お昼も過ぎて3時頃になると、遠くから榎本さんの奥さんの「にゃん太郎ー」「にゃん太郎ー」と俺を探す声が聞こえて来た。

俺を探して付近を歩き回っているようだ。あ、だいぶ近づいて来た。今、永山さんちの前を歩いているようだ。俺は耳がいいから足音で分かるんだ。

「俺はここにいるよー」って教えたいのだが、猫が大声を上げても、聴覚が猫ほどに優れてはいない人間には聞こえない。それに第一、目の前の犬に怯えている俺の身では声すら出ないのだ。トホホ。俺はどうなるのだ。神様、仏様。助けて!

 

榎本さんの奥さんは夕方にも俺を探していた。夜になると、職場から帰宅した榎本さんも加わって、奥さんと二人で探している声が聞こえて来た。そしてとうとう夜が明けた。犬は俺のことをまだ諦めていない。

俺の緊張状態は続きっ放しだ。勿論眠っていない。腹もすいたが、水を飲めないのがもっとつらい。俺はこの先どうなるのかを考えると、頭の中が真っ白になった。今日は土曜日だ。朝から榎本さん夫婦が何度も俺探しをしていたが、見つけてもらえなかった。時間が経つのが余りにも遅くて気が狂いそうだ。

やっと翌日、日曜日になった。榎本さん夫婦の俺探しはいっそう頻繁になり、1時間に一度くらいになった。榎本さん達もそうとう参って焦っていたと思うよ。俺も精も根も尽きてしまっていた。

結局、俺は日曜日の午後3時頃見つけられて、榎本さんちへ生還することができた。その経緯は次のようだったという。

犬の飼い主の永山さんの奥さんは、犬が庭の物置近くで、何かを嗅ぎ回っているのに気がついた。そこで物置を調べていたら、物置の下に何か黒いものが見えたという。榎本さん夫婦が飼い猫を探し歩いている声を、永山さんの奥さんは何度も聞いていた。もしかしたら、あの黒いものはその猫ではないかと思いついたそうだ(偉い!)。

そして榎本さんちへ電話をしてくれて、榎本さんがその黒いものを見に来たら、やはり俺だったという訳。だけど、榎本さんが来ても、俺は犬が怖いので、自分から出て行くことができない。榎本さんは「にゃん太郎は臆病だな。さあ出ておいで」と言いながら、腹ばいになって俺を物置下から引っ張り出してくれた。涙のご対面だ。

引っ張り出されて窮地を救われたのはこれで二度目だ。俺はやはりおバカなのか、ドジなのか。高貴な生まれかもしれない俺の無様な姿。心底落ち込んでしまったよ。榎本さんも、「こんなに近くにいたのに、見つけられないとは」とがっくりしていた。

俺のミスなのに、榎本さん、ごめんね。永山さんの奥さん。ありがとうございました。榎本さん。ご心配をおかけしすみませんでした。榎本さんの奥さんはその日の夕方、ケーキを買って来て、永山さん宅にお礼に行ってくれました。誠に申し訳ありません!