【前回の記事を読む】【小説】俺の名前は「にゃん太郎」 榎本さんちに飼われてる

第二章 実はドジで臆病

小箱に嵌ってさあ大変

猫の習性として、体をすっぽり包み隠してくれるような入れ物に入ると、とても安心できるんだ。ダンボール箱が好きな猫も多いね。外敵から身を守るための手段・方法と言ってもいいよ。

猫にも怖いものはいるよ。ペットとして家の中で飼われて、ちんちくりんな服を着せられた小型犬は怖くも何ともない。だけど繋がれて庭で飼われている大型犬は怖いよ。人間も体がでっかくて声も大きな人には脅威を感じる。そんな人と出会うと、近くに箱などがあればすぐそこに隠れるよ。もし、なければ二階などに逃げて、そこでその人がいなくなるまで我慢することになってしまうんだ。

俺がまだやんちゃ盛りで、玩具で遊んだりしていた頃のことだ。ある日、体がでっかくて声も大きな女の人が榎本さんちに来たんだ。俺は隣の座敷に置いてあったアイロンの木箱に咄嗟に逃げ込もうとした。若い人達の多くは、昔、アイロンの容器が木製の箱だったこと知らないだろ? 木製だからとても頑丈でしっかりした作りなんだ。

隠れるにはちょうどいいサイズと思って、急いで先ず前足を入れ次いで後ろ足を入れたが、どうしても頭と尾っぽが入らない。入るのを諦めて出ようとしたが、今度は体が頑丈な箱にピタッと嵌って、身動きできないんだ。

あがくことももがくこともできない。このまま息絶えてしまうのではないかと恐怖を感じて、パニクってしまった。にゃん太郎、1歳にもならずして死すか! 「嫌だー。助けてー」と悲痛の叫びをあげ続けた。

隣の部屋でお茶を飲んでいた榎本さんの奥さんと客人が、俺の話をしていて、「あら、にゃん太郎がいない」と気がついて座敷の方を見たら、俺の瀕死の如き様が目に入った。その間20分くらいか。「にゃん太郎。いったいどうしたのよ」と驚きながら、榎本さんの奥さんは俺を箱から引っ張り出してくれた。

 

「恥ずかしい!」俺は這々の体でその場から去って行くしかなかった。生まれて初めて味わった屈辱感だ。

奥さん達は「ドジなのか、おバカなのか」と言いながら、クスクス笑ってやがる。俺は大きな計算ミスをして、確かにドジだった。恥ずかしいよ。だが俺が自己嫌悪に陥るほど苦しんでいるのに、奥さん達が笑っているとは無礼だと、助けてもらったことも忘れて、腹が立って仕方がなかった。

俺が逃げた先は二階の寝室だ。そこで、憤懣やるかたない気持ちを抱えて、客人が帰るのをじっと我慢して待っていたんだ。そしたらいつの間にか眠ってしまっていた。所詮子供だったんだよな。なんだかんだ言ってもすぐ眠ってしまうんだから。