俳句・短歌 短歌 2022.05.30 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第65回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 レシーバーはづして憩へば春雪の雨に変れる音静かなり 日勤の人等帰へるを羨まず心ひきしめ徹宵作業をす 交換台に延びくる窓の夕明り気付かぬ如し働らく女は
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『心ふたつ』 【最終回】 高田 知明 一世一代の悪霊退散の儀式。今まで代々と長男を守り、時には呪ってきた「ふみ」さんは計画通りに現れた...!! 「弘樹さん。貸衣装もバッチリよ」陽菜は持ち帰った紙袋をぽんと叩いてVサインを出した。午後二時過ぎになると、俺の両親と姉がやってきた。姉がひろみの顔を見て「かわいい」と言っている横で、両親は陽菜の顔を見て唖然としていた。「これならうまくいくかもしれないな」それまで不安でいっぱいだったが、この父の言葉に励まされた俺は、これから始まる対決に、自信をもってやればいいのだと自分を励ました。「何がうまくいく…