彼女が帰ってくるまで少なくとも一年、恐(おそ)らくは二年、私はここで彼女を待ちながら、自分の病気を治そうと思った。それからというもの、私は心の空(むな)しさを埋(う)めるように、明けても暮れても、ステップと言われる回復のプログラムに取り組んだ。しかし、Mは一年経(た)っても、二年経っても、――何年経っても帰っては来(こ)なかった。五年目のある日、仲間の一人が持ってきた串本(くしもと)の写真に、M…
[連載]追憶
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エッセイ『追憶』【第12回】田中 敏之
仲間だった少女の消息を訪ね…男が施設職員に抱いた「憤り」
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エッセイ『追憶』【第10回】田中 敏之
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エッセイ『追憶』【第9回】田中 敏之
アル中患者の闘病記…奥底に突き刺さった「肉中のトゲ」
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エッセイ『追憶』【第8回】田中 敏之
酒を止められない「アルコール依存症患者」…施設脱走者の陰惨
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エッセイ『追憶』【第7回】田中 敏之
忍び寄る禁断症状…アルコール依存症者が放った「一つの質問」
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エッセイ『追憶』【第6回】田中 敏之
唯一の友人Kは死を求めて、未知の世界へ赴こうとしていた
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エッセイ『追憶』【第5回】田中 敏之
唯一の友人の死…アル中男性が初めて気が付いた「本当の孤独」
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エッセイ『追憶』【第4回】田中 敏之
「また一人殺したよ」そう言って、友人は突然死んでしまった
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エッセイ『追憶』【第3回】田中 敏之
断酒の禁断症状に苦しむ男性…脳裏に浮かぶ、幼い頃の母の悲哀
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エッセイ『追憶』【第2回】田中 敏之
恐ろしい…アル中になった男性。母の死を知り、まさかの行動
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エッセイ『追憶』【新連載】田中 敏之
69歳、アルコール中毒。「酒に浸って生きた」男性の壮絶人生
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