ナイト・ナイトの犯罪件数は百件を優に超えている。ナイト・ナイトが初めてその存在を明らかにしてから二、三年ほど経った。それにもかかわらず彼は誰にもその正体を見せずこの犯罪件数を叩き出しているのだ。はっきり言って異常である。そしてまたその犯罪目的がすべて、ハレンチを撲滅するためであるということも異常であった。

ナイト・ナイトの活動は多様だ。今回のようにレンタルビデオ店から桃色ディスクを消し去ることの他に、ネットに流れる桃色映像を削除し、赤文字で「This video has been deleted」と画面に刻んだりもする。彼が普通の男でないことは確かだ。

では警察は何をしているのか、そう問いたくなるだろう。警察は当然、ナイト・ナイトを追っていた。しかしナイト・ナイトは巧妙な手口で一切の痕跡を残さないのである。現場には指紋ひとつ残っていないし、血痕なんてあるわけがない。ハレンチな桃色ディスクを盗んだりしているだけで、血が出る要素が無いということもある。

指紋も何も残らないのは何故か。それはナイト・ナイトが真っ赤なスーツと真っ赤な仮面に身を包み、その体を完全に覆い隠しているからであった。それは監視カメラを見れば一目瞭然である。しかし監視カメラが彼を捕えた直後そのカメラはレンズが故障し、画面が一面真っ赤になって機能を無にしてしまう。その手口は誰にもわからなかった。

犯罪を終えた後の彼の姿を見た者は未だいないとされている。しかしどこかに共犯者がいるのではないかともっぱらの噂だ。彼は桃色という桃色を盗み過ぎている。その大量の桃色を保管する場所が、彼一人で用意できるとは考えられないのである。

兎にも角にも、警察はナイト・ナイトを捕えられていない。そして警察側からすればレンタルビデオ店から桃色ディスクが消えたとて、正直どうでもよかった。他に力を入れなければならない凶悪な犯罪は山ほどあるのだから仕方がない。したがって警察はナイト・ナイトを捕らえる気力を持ち合わせていないのだ。現場にはやる気のない警官が犯罪状況を記録するために一人か二人送られるくらいで、現行犯逮捕など夢のまた夢である。

成す術なく店をあとにした風太は家に帰って、飼っている九官鳥に餌をやった。風太の飼う九官鳥はよくしゃべる。風太が帰るとすぐに「ザンネン!ザンネン!」と鳴くのだ。風太はアツアツのホットミルクを一気に飲み干すと、邪念が沸いてくる前にぬくぬくの毛布にくるまった。困った時は眠ってしまうのが一番手っ取り早い、風太は阿呆にもそういうスタンスである。

しかし季節は真夏を間近に迎える六月だ。毛布にくるまると少し暑い。そして九官鳥が「桃色ヲホッセヨ! 桃色ヲホッセヨ!」とうるさい。変な鳴き声を覚えていることが風太の九官鳥の愛嬌であり、厄介なところだ。お隣さんに聴かれると少し気まずい。