【前回の記事を読む】これが社会の荒波か…「社長のおたんこなす」と思ったワケ

ハレンチの敵

しかし公園に入ってすぐ、風太は足元に変な模様が描かれているのを見つけた。よく見るとそれはマンホールサイズの円であって、文字のようなものは見受けられない。ただ土を削って円の形にしただけのモノであり、小学生でも描けるであろう。ただそれが足元だけでなく、公園全体のいたるところに描かれていたので少し不気味に思えた。

「ミステリーサークルみたいじゃない?」

風太に気がついた南雲さんがそう声をかける。彼女がそこにいることは初めからわかっていたが、急に声をかけられ風太は一瞬ドキッとした。しかしまたミステリーサークルとは可愛い発想だ。

「南雲さん、これが何か知っているのかい?」

風太のその問いに彼女は首を横に振った。

「私が来た時にはすでにこの状態だったの」

公園全体にポツポツと描かれたミステリーサークルは、UFOが来たというには円が小さすぎるし、数が多すぎる。したがって風太にはこれらの円がミステリーサークルだとは思えなかった。

「小学生のイタズラだろうか」と風太は言う。

すると南雲さんはその美しい輪郭を傾けて言った。

「わからない。でも何となくそうじゃない気がする。きっと私達の知らない所で何か悪いことが起こっているのよ」

「え?」

可愛らしくミステリーサークルと評した南雲さんが、一転して深刻そうな表情をする。風太がハテナマークを頭のてっぺんに浮かび上がらせると、彼女は少し困ったように笑った。

「ごめんね、ただの勘なの。でも、何か悪い予感がしたのは本当よ」

胸騒ぎがした、と言ってまた、何かを思案するような表情で謎の円を見つめた。やはり南雲さんは謎多き人物だ。風太には手に余るほど膨大な量の謎を一人で抱え込んでいる。しかし彼女自身はそんなことを気にしてはいないようだ。話について行けない風太をよそに「この円は悪者たちが残した痕跡ね」と本気で言っていた。

風太は適当に「ほー」と相づちを打つと、南雲さんの隣に腰を掛けた。少し恥じらいを持って人一人分と言わず三人分は空けて座った。つまり二人はベンチの端と端にいる。風太は遠慮がちな人間なのだ。