【前回の記事を読む】親友の頬を平手打ち…「私から彼氏を奪う気?この裏切り者!」

のぞみの結末

約束の時間になっても、あかねは現れなかった。淳美はアイスコーヒーをゆっくり飲みながら、『喫茶プレリュード』と書かれた入り口のドアをただぼんやりと見つめていた。氷はとうの昔に溶けていて、グラスの上部に透明な層を作っていた。

あかねが時間にルーズなのには、淳美もすっかり慣れっこになっていた。この日も20分遅れで店に入ってくると、あかねは待たせたことを詫びるでもなく、淳美の向かいの席に腰かけ、レモンスカッシュを注文した。

「久しぶり。元気にしてた?」

「こっちは元気にやってるわ。あかねも元気そうじゃない。でも突然どうしたの?」

「実はね、うちの旦那が去年死んじゃったの。それでいろいろとごたごたしちゃって。遺産相続だとか、後片づけだとか。田舎だからよけい面倒くさいの。あっちゃんは知っているでしょ、あたしってそういうの苦手なこと」

「そう、大変だったね。それで、あかねは大丈夫なの?」

「うちの旦那、もともと体が丈夫じゃなかったから。年も相当上だったし、いつ死んでもおかしくなかったの。でも、まさかこんなに早く逝っちゃうとは思っていなかったけど」

あっけらかんとしたその口調には、夫の死を悲しんでいる様子はまったく感じられなかった。