【前回の記事を読む】【小説】妻と子どもを実験台に…「お前を誰よりも愛していた」

双頭の鷲は啼いたか

タケルは病院からの帰り道、小さな喫茶店を見つけ一人で遅い昼食を食べていた。高次脳機能障害のことはショックだったが、それほど重いものではないようだったので、たくさんもらった薬をお守りとして自分で生きていこうと思った。スマホで松永さんに報告してこれから出社することを伝えた。

「お疲れさまです、ちょっと話せるかな?」

松永さんから珍しく話を振ってきた。

「はい、どうぞ」

「実は、先ほど警察がまた来たのですが、篠原さんの件。彼女には彼氏がいたそうだ。見たことや聞いたことがないかと聞かれたよ」

「僕は知らないですね、プライベートなことを話すほど時間に余裕はなかったですし」

「そうか、私もここに来ることはそんなにないし、男の影を見たことがあれば噂になるだろうと言った」

「そうですか、あ、秋元さんに聞いてみたらどうでしょうか」

「だけど、ねえ。ハラスメントにならないかな。聞きにくいでしょう」

「で、僕ですか」

タケルは自分が尋ねても、ハラスメントではと思ったが、松永さんに頼まれたならしょうがないなと思うしかなかった。

「頼める? 無理にとは言わないけど」

「じゃあ、これからそちらに行きますから、そのときにでも」

「そう、悪いね。古谷君が来てくれるなら本社に戻る」

「期待しないでくださいよ、仕事溜まっていますし。医師に無理はしないようにと言われていますから」

「そうか、すみません。よろしくお願いね」

まさにカオス、今日はいろいろなことがありすぎた。タケルは自分の体に起こっている交通事故の後遺症と、階段で突き落とされそうになったり、同僚が殺害されたことなどすべて関連があるとは思ってもいなかった。タケルにとっては困ったことになったなと首をすくめる程度の事であり、もらった薬の処方箋を読んでため息をついた。

「これをのんだらよくなるのかな」