【前回の記事を読む】「あの頃には戻りたくない一心で」最低な父に少女は思わず…

第三章

恵と駅近のカフェで待ち合わせていた私は、そのとき初めて家族の事や自分の事を互いに話した。恵には歳の離れた妹が一人いる。家族写真を見せてもらったが、美形一家だった。

「妹と歳が離れてるね」と特に意味は持たせず発した言葉に「継母だよ」と返された。その意味は、妹は父親と再婚相手との子どもだということだ。恵は母親と血が繋がっていなかった。両親は妹を溺愛しているという。恵はそんな妹に僻みや劣等感を抱いていた。自分は愛されてないと話しながら、定食のハンバーグをフォークでグサっと力強く刺した時の表情は、恐ろしくも美しかった。

「うちさ、お母さんが不倫してたんだよね」

「えっと」

「本当のお母さんは記憶ない。二番目の方。お母さんが不倫ってありえなくない?」

「うん。ショックだね……」

まだ私たちがガラケーを愛用していた時のこと。当時のメール設定を使って母親に送られてくる男とのメールのやり取りを、自分にも転送して中身を覗いていたらしい。下着姿を不倫相手に送っていた母親に絶望したという。家族で外出した時、母親と浮気相手が逢い引きしているホテルの前を車で通過した。恵は助手席にいる母親を睨み、母親はホテルを気にも留めず父親に笑顔を向けていたという。

「大人はなんて汚いんだろう。里奈もそう思うよね?」

恵は両手でグラスを持って、視線を下に落としストローを噛みながら話していた。

「お父さんは知ってるの?」

「誰も知らない。わたしさえ黙っていればみんなが幸せでいられるから。そもそも言っても信じてもらえるか分かんないし」

話し終わるとオレンジジュースを飲み干した。

「そうだ恵、この前はクラブ先に出ちゃってごめんね。連絡したんだけど返事こなくて」

「あー、大輔と酔っ払ってそのままホテル行っちゃってた。わたしこそ置いてっちゃってごめんね」。

そうだ悪い噂を聞いてしまったんだった。恵は知らないのかな。言うべきかどうか分からなかったが、こういう時友達なら心配して当然だ。

「大輔の悪い噂聞いちゃったんだけど、大丈夫なの?」

「なにそれ」

「いろんな子に手を出してるって」