【前回の記事を読む】ダイバーが帰ってこない…サンゴ礁が引き起こす自然の脅威とは

交通事故

*シートベルトは忘れずに

当日は天候もよく、運転もおだやかで、狭いながらも二車線の道路状況もよく、順調にジャカルタへ向けて走り出しました。出発してから三十分を過ぎた頃、プルアカルタという町へさしかかり、通行人も増えてきました。運転手はかなり運転に気を配っていましたが、われわれの走っている車道の前方を村人が道端より少し中央よりを自転車に乗って走っており、また反対車線の前方からは二十人乗りくらいのマイクロバスが走ってくるのが見えていました。

運転手は十分安全にすれ違えると判断したのでしょう、スピードを上げて少し対向車線(車線はなかったので推測です)にはみ出して自転車を追い越し始めたところ、なんとマイクロバスもスピードをあげて中央寄りに走ってきました(この手のいやがらせのような行為は、途上国では今でも外国人や高級車を利用している人に対してなされることがままあります)。

私は助手席に座っていたので、すべての状況が見えていました。そしてぎりぎりで車同士すれ違えるかなと、判断していました。

[写真]交通事故に遭遇した道路

しかしその後の記憶はほとんどなく、ようやくはっきりと気がついたのが事故発生から約八時間後の午後五時半過ぎ。私は村の病院のベッドの上でした。目の覚める以前、事故からどのくらい時間が経過したかはわかりませんが、ふと人の声が聞こえたようで目を開けたところ、上司の一人が顔中血だらけになっていましたが、私を覗き込むように何か言っていました。私は「ああ、事故が起きてしまったのだなあ」と理解してすぐ、また気絶したようです。

次に目が覚めたのは多分村人が用意してくれた小型トラックの荷台に、どしん、と乗せられたときでした。そのとき村人たちが、「運転手が死んだ」と言っているのが聞こえ、私の隣に誰か乗せられた気配がしたので、やっと少し横を向いたところ、すぐ脇に見覚えのある運転手の顔があり、すでに死んでいるようでした。私は「ああ、運転手は死んでしまったか、かわいそうに」と思い、ふたたび気絶しました。