俳句・短歌 短歌 2022.05.06 短歌集「茜色の空」より三首 茜色の空 【第5回】 有波 次郎長 人間の美しさとみにくさ、コロナ禍での生活、忘れられないあの女性……。 ささやかな日常を詠った誠意ある作品、幅広く物事を取り上げ、「今」を鮮烈に詠いあげた短歌集。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 終わりなき無限の空洞、流されてただ流されて尚見渡せず 叫んでも何も聞こえずただ一人 聞く者もなし己が心音 戦前の罪を後世の人等には償うことは出来ぬことなり
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『人生の切り売り』 【第5回】 亀山 真一 コンプレックスである大火傷の痕。悪魔は「大事に取っておいたんだ?」と冷たく言った 「この男が売っ払ったっていう元彼か」不躾(ぶしつけ)な呟きに、反射的に言葉を被せる。「どうして戻ってきたの?」「君に頼まれたのは『ちょっと出てって』とそれだけだから、いつこの部屋に現れようと僕の勝手だろう」悪魔は掛橋くんから視線を逸らすことなく答えた。その声音はやっぱり面白がっている。「そもそも君の言葉に従う義務も、僕にはないんだし」「じゃあ最初からそう言ってよ」きちんと対応を考えられていれば、…