中間試験が終わって、六月の二つの七人制大会は全部敗戦で終わった。でも、夏に向けてラグビー部の活動は熱を増してきている。昨年と同様に、菅平ラグビーアカデミーにエントリーした。

夏休み期間の練習試合や合同練習など、スケジュール的なものについても一通り整理出来ているので、少し気持ちが楽になっていた。雑談のノリで話してみたのだが、小山さんが内に秘めている感情も単純なものではなかったのだ。でも、含み笑いをしながら小山さんは言う。

「いっそ、ありす、ラグビー部に誘っちゃおうか」

次の土日は文化祭だ。そういえば、バンドは?

「こう言ったらユーコ先生に誤解されちゃうかな。私、バンドの支配者になってます。だからライヴもばっちりです」

その含み笑いが、真実を告げている。先輩たちを屈服させてしまったのだろうか。

文化祭のステージで、その姿は十分に発揮された。二年生ラグビー部員たちは、完全に小山さんのバックバンドになっていたのだが、本人たちはそれで満足そうに演奏していたので、それはまあいい。岩佐くんのベースが遅れ気味になるのも、愛敬ではある。

分からなかったのは、そのライヴの間、ずっと新田さんが佑子の隣にいたことだ。周りの生徒たちはノリノリで飛び跳ねていたけれど、彼女は微動だにせずにステージを見上げ、時に佑子の横顔に視線を向ける。その都度、銀ぶち眼鏡がきらりと光る。

エイトビートを疾走し続けた石宮くんの、クラッシュショットが響いてライヴは終わる。無粋な担当の先生の、何の理解もない指示に従って撤収しなければならないのは、まぁ文化祭の宿命ではある。照明の灯った体育館のフロアで、新田さんは佑子を見上げた。

「楽しかったですね」

少しの興奮も感動も感じさせない、でも、律儀さの中に何かを求めている言葉にも感じられる。

小山さんが、ステージから飛び降りてきた。短いスカートがひらりとするのにも、彼女は無頓着だ。

「ありす。言いなよユーコ先生に。ラグビー部のマネージャーやらせてください、ってさ」

「はい。です」

ちょっとずっこけそうになったけれど、佑子は新田さんのぎこちない、でも真っ直ぐなな笑顔を初めて見た気がする。

「もう今日から活動するのよ。よろしくね」

新田さんは、その活動に早速合流してくれた。もう暑いのに体操服の上着を着込んで、前のファスナーを首元まで閉めて。