「ところで、親父さんの給料は幾らなの」
「う〜ん、儂の給料は五十万円よ。修平には毎月三十万円払っている」
「五十万円。それで、ボーナスはあるの」
「社長にボーナスなんか、あるものか」
(月額五十万円と言うことは、年収六百万円か。俺の昨年の年収は約七百万円だから、単なるコピーライターの方が社長である親父より多いのか。その収入で俺に二浪をさせ、仕送りをしてくれていたのか……)
薄暗い土蔵の重い扉を開け、隠されていたものを覗いたような罪悪感に襲われ、何とか扉を閉めようと恭平はもがいた。
「経営が苦しいのは、何が一番の問題なの」
「いろいろあるが、直接的には出店の失敗だ。初期投資に金を掛け過ぎた」
「あぁ、あのレジャーランドに出したレストランね」
「夏の間は良かったけれど、九月に入ったら客足がばったり落ちた」
「だから、止めた方が良いって言ったでしょう。僕の言うことを聞いておけば良かったのに」
「……」
「大体、親父さんは、思いつきで行動し過ぎるんだよ。直ぐに熱くなるんだから。もっと事前のマーケティング調査を慎重にしないと」
「何がマーケティングや。サラリーマンのお前に会社経営の難しさが、解るもんか!」
口を尖らせて父親が反論する。
(あっ、しまった)
恭平は、心の中で舌打ちする。