【前回の記事を読む】独自研究の奇抜な発想「ネズミに靴を履かせたらどうなる?」

3章 仕掛けとその効果

1 ネズミに靴を履かせる作戦

薄い金属の板を曲げて小さな箱にし、足を突っ込んだ場合に足に食い込んで抜けなくなる構造にした。広さが4㎡ほどの飲食店の厨房の土間に並べて設置し、中央に小さく切った食パンを山盛りにして置いた。私は、捕獲にあたっての餌は食パンと決めている。食パンはネズミの大好物で、出来立てのパンは匂いが強く、厨房に匂いは充満し、その存在はすぐに周囲のネズミに認知されるからだ。ネズミの生息の有無を確認する手法として食パンを用いるのも、そのためである。

テストの結果は、1つの小さい仕掛けが2mほど離れた場所にころがっていたので、1匹が足を突っ込んだということと、それが抜け落ちたということがわかった。山盛りに置いたパンはそのままである。

その様子を暗視カメラで撮影したのだが、面白い様子が観察された。画面には、数匹のネズミが行き来する様子が写っていたのだが、画面の奥にいる小さい個体は仕掛けに全く近寄ろうとしない。大きい個体が数回様子を窺うように近づいて来るのだが、すぐに画面からいなくなる。当時は6時間しか録画できなかったので、設置後6時間を過ぎた早朝に1匹が仕掛けにチャレンジしたことになる。

設置してすぐにネズミが群がってくる様子が映るだろうと予想していたのだが、そうはならなかった。ネズミたちはパンの存在をすぐに認知したはずなのに、小さい個体はまったく近寄ってこない。まるで、大きい個体に遠慮し近寄ることさえできないように見える。大きい個体も、仕掛けの近くで立ち止まって思案する様子もなく、近くまで来て通り過ぎるだけである。パンを認知しているが、警戒心の方が強く何回も断念したという風に見えた。

チャレンジしたのは仕掛けに足を突っ込んだ1匹だけであり、おそらく大きい個体であろうと思われるのだが、決心するのに6時間以上かかった。そして、仕掛けに対するチャレンジは1回で終わっていたため、2回目以降のチャレンジと他のネズミのチャレンジはなかったことになる。