しかし風景は割合に良く、特に湖や高い滝が時々現れる。爽やかな雰囲気が立ち込め良い眺めもある。ノルウェーは山脈の国で、電力も全部水力発電所で必要以上に造り、余分な電力はスウェーデンなどに売っているという。クリーンなエネルギーを売るほど持っているのは全く驚きである。
ヴォスは中継地であり、ノルウェー最古の木造集会場などがあり風景もきれいだ。ここから鉄道線と別れて道路はまっしぐらに降りて行きグドバンゲンに着くと目の前にフョールドがある。フョールドは氷河で削られた深い谷に海水が入り込んでできた入り海の一種だ。ここで見えるのは、世界一長く深いソグネフョールドの奥部である。
観光船に乗って静かな水面を走り出す。周囲の岸壁や木を映し出して、波のない水面を滑っていく。目の前に文字通り海抜一二〇〇メートルくらいの絶峰が姿を現す。フョールドの水深は最深一〇〇〇メートルくらいあるからものすごい絶壁である。清爽、急峻な自然の厳しさ、美しさと形容すべきか。空はつきぬけるような晴天で、紫外線に肌が痛いくらいである。
山岳鉄道からオスロ特急へ
二時間のクルーズで終点フロムに着いた。昼食にミートボールなど出され、フロム山岳鉄道でミュルダールまで登って行く。この鉄道はオスロ︱ベルゲンの幹線鉄道敷設のための資材運搬鉄道だったが、今は急勾配を誇る観光鉄道になっている。
山岳鉄道からの風景は実に美しい。丘と谷が連なって桃源郷を空想させる。日本の景色に近いと言うべきだろうか。途中で左窓に落差九三メートルという大きなショースの滝が現れた。列車は一旦停止し、乗客は全員木製の展望台に降りて鑑賞した。壮麗な音楽が鳴り渡り、滝の棚にブルーのドレスをまとった女性が登場して風になびきながら舞った。なんという素晴らしい大自然をバックにしたショーだろう。三分間くらいだが、私の長い旅経験でも最高のサービス精神を見た。
一時間で山岳鉄道を登りきってミュルダール着。ここでオスロ行きの特急列車が来るまで少し寒くなったホームで五十分待った。ベルゲン側から列車が登って来たので乗り込んだ。ここから暫くの窓外は凄かった。風景は岩盤と草ばかり。樹木が一本もない。ハダンゲル高原である。恐山のような死の世界の連続でスカンディナビア山嶺の妖気に寒けがした。そのうち車内に夕食の洋食弁当が配られ、列車は下界を目指して驀進すること四時間半で午後十時半に首都オスロの中央駅に着いた。
有り余る電力で夜の街は明るい。市内のトーンホテルに着き、ぐっすり寝た。