【前回の記事を読む】「顔を見てから認識まで明らかにタイムラグがある」衝撃の理由
視覚情報の統合と視覚感覚
ところで、前の体性感覚の場合に、皮膚での感覚意識が生じるのに500ミリ秒くらいかかっているはずなのに、その感覚意識が生じたタイミングは、初期EPの時点(皮膚刺激とほとんど同時)まで前戻しされるという実験結果があり、初期EPは、刺激の場所と時間的なタイミングを提供するというリベットの考察がありました(私は、まず初期EPの時点である種の感覚が生じ、約500ミリ秒後に成立した感覚と統合されて、一つの完成した感覚となるのではないかと考えています)。
このことをもとにして考えますと、もし中心視野での視覚においてもそのような現象が起きているとしたら、見えたというタイミングがその分速くなると考えられるのではないかと思っています。
視覚情報の詳細化(明瞭化)に約145~170ミリ秒、そのあと記憶情報との照合で約170~200ミリ秒くらいはかかると思われる視知覚の完成(成立)という過程において、一般的には記憶情報との照合がなされてから知覚として認知されるといわれていますが、その前の段階の、おそらく刺激情報が視覚野V1、V2、V3付近の段階で、(不完全な状態かもしれませんが)すでに見えているのではないかと考えられるのです(これは、視覚的意識の形成において、視覚野と、前頭葉プラス頭頂葉は、ネットワークとして同期的に活動しているとのことですので、視覚野の途中の段階でも視覚意識が生じる可能性があると思われるからです)。
そうだとしますと、この場合も、完成した視覚での感覚意識が前に戻るというより、感覚としてやや不完全な状態から、記憶情報との照合がなされて完全な視覚感覚となるまでの過程において、すべて融合されたような形となって、最終的に一つの明瞭な視覚感覚として意識される(見える)ということとなるのではないかと考えています。
ある幅の時間間隔をもった感覚が、一つの感覚に統合されるという現象があると考えられますので(時間的な統合窓)、このことからも、刺激が視覚皮質に到達したはじめの段階(V1~V3付近)での感覚と、記憶情報との照合のあとでの完成された感覚とが、ある時間的な範囲で統合されて、一つの感覚として意識されるということで、説明できるように思います。
この場合、記憶情報との照合がなされて視覚感覚として完成するのには170~200ミリ秒程度かかると考えられるわけですが、実際に見えるタイミングは、V1またはV1~V3付近に刺激が到達したと考えられる時点(約100~145ミリ秒後)となるわけです。ただ、このタイミングより前の時点、例えば75~100ミリ秒後くらいまでもが時間的に統合されていて、このときにすでに見えたと感じているのか、または75~100ミリ秒くらいではまだ見えてはいないのかということについてですが、もし見えていないとすれば、その一瞬だけ視覚(中心視野での視覚映像)が不連続となるように自覚されるはずで、それが自覚されないのはなぜかということが疑問点となるわけです(図表1)。