惣右衛門は国入りをしたことのない青山に具体的な指示をだした後、重太郎とひき合わせた。
「この者は腕は立つが、何しろ若輩の身で藩の事情などなにも知らぬ」
重太郎の剣の腕は確かなものだが、果たしてそれを生かせるかと重太郎の器量を測ろうというのである。
青山新左衛門は江戸定府で旅慣れず、重太郎も江戸に出て来て以来、六年ぶりの帰藩である。そこで諸星玄臣が途中まで一緒だった。
青山新左衛門は諸星から、金崎港で勢戸屋が舟から荷を運びこむのに、日傭取り人夫を募ったりすると聞いて、そこに潜入しようと、月代をのばし、ひげ面となった。
青山新左衛門と和木重太郎が二河城下の岩淵郭之進の屋敷に到着すると、諸星が配下の吉三と一緒に待っていた。
諸星玄臣が早速調べてきた金崎港での勢戸屋の様子を話し、最後に、「金崎港での勢戸屋の動きを見張らなければならないが、坊の入り江というのも気になる」
坊の入り江はいつも波が荒く、昨年、大きな異国の帆船が座礁したことがあったという危険な海で、そんな、人が立ち入らない海で、抜け荷の荷を運び込んでいるという噂があると言う。
「無駄足になるかもしれないが」
と諸星玄臣が付け加えた。それで、吉三と重太郎が坊の入り江を調べることになった。
諸星玄臣と青山新左衛門は浪人に身をやつし、金崎港に向かった。
金崎港は粗衣川の河口にあり、北前船が寄港するなど活気のある港であるとともに、漁港でもあるので、そこから舟で大量の荷や新鮮な魚介が城下に運ばれている。
当然、夜ともなると仕事を終えた荷舟人夫や漁師らであふれる。そういう男どもを相手にする居酒屋が立ち並び、遊女屋もあってとても賑やかだった。