今度はもう少し長く間が空いたように感じた。仕方ない。さらっと衝撃的なことを言うからだ。
「今年のはじめ頃にも、『俺の呪いどうなった?』って聞いたよな? その時『師匠に相談した。そのうち解決するから心配ない』って言ってなかったっけ? もう! 無事解決したんだったら言ってくれよ」
別に怒ってはいない。俺からしたら、むしろ喜ばしいサプライズである。けれど桃は、バツが悪そうな様子だ。
「本当はそうじゃなかった」
そうじゃない? どういうことだ?
「去年の五月に会った時、原因が出雲大社の蛇だと当たりがついただろ? だから、そのすぐ後、師匠に相談してこっちでなんとかしたんだ」
なんとかとは?
「まあ、出雲大社に出向いたりとかだ」
ということは、年明けどころか俺とヒカルが会う時には、すでに解決していたってことか? そう聞くと、桃はまたバツが悪そうに頷く。
「そういや、去年五月に会った後、二ヶ月以上会わなかったよな。あれは俺にヒカルのことを相談するタイミングを計っていたんだとばかり思っていたけれど、その間に俺の呪いを解いてくれていたのか」
また頷く。なんとまあ。でもどうして? やっぱり呪いがすでに解かれていることを俺が知ったら、協力しなくなると思ったからだろうか。でも今度は「違う」と否定された。
「あんたは、責任感がない人間じゃない。それに情が深い人間だから必要とされている時に、中途半端に投げ出すことはしない」
じゃあ一体なんでだ? 今度は答えない。答えるのを躊躇っているようにみえた。たとえるなら、何か言えないことをしていて、それがバレるから話せない、というように。こいつが何か言えないことをするようにはみえないから、奇妙な感じだった。待っていても答えてくれなさそうだったので、仕方なく一度話題を変えた。
「俺が情が深い人間だって? さっきも、俺がいいやつだって前から知ってたみたいなこと言ったけど、それ最初に会った時の印象でそう思ったってこと? 悪い気はしないけれど、ちょっと人間を簡単に信用し過ぎじゃないか?」
俺は冗談めかして言ったつもりだったが、桃は真剣な表情で予想外のことを口にする。
「本当は、その前からレイのことを知っていた。去年の五月に会う前に、二回あんたを見たことがあった」
なんだって?
「あんた、二年半くらい前に小鳥を供養したことあっただろう」
もちろん覚えている。鮮明に。俺の数少ない善行だ。大学三年生の冬、学校へ行く途中だった。代々木八幡脇の道に小鳥が死んでいて、虫がたかっていた。見るに忍びなくて、家からスコップを持ってきた。恐る恐る小鳥を掴み、スコップに乗せて移動し、公園内の人が通らないところに穴を掘って埋葬した。近くに咲いていた花も数本ちぎって一緒に埋めてあげた。
けれどこのタイミングでその話が出てくるなんて……。そもそもなんで知っているのか。この話を誰かにした記憶はない。もちろん桃にも。なんとか平静を装って、なんで知っているのか聞く。