第一章
学校では本当に親しい友人にのみ親の離婚について打ち明けた。すると、友人も自分のことを話してくれた。彼女の父親も不倫をしていた。母親が気づき、父親を避けた生活をしていると、次第に家族の時間は減り、家族みんなで食卓を囲むこともなくなったという。
「よその家は家族みんなでご飯を食べているのに、どうしてうちは違うの」
彼女の弟は家族の異変に気づかないほど幼くはなかった。涙して訴える息子に大きな過ちを犯したと気づかされた彼女の両親は、家族全員で話し合う時間を作り、手遅れになる前にやり直すことができたそうだ。問題のある家庭が自分の家だけではないと知る。この複雑な境遇を共感しあえる友人が身近にいたことは、ほんの少しだけ私の息の詰まるような思いに風を通してくれた。
本来なら不倫なんてものを子どもが知る由もなく、中学から女子校に通う私にいたっては彼氏すらできたこともなければ、まともな恋愛をしたこともない。一番身近にいて信頼していた父に裏切られることは、男性不信になるきっかけとして十分だった。
できるだけ家に帰りたくなくて部活の練習を終えたあと、夜九時くらいまで親友のあかりとコンビニの前で延々と語り尽くした。私の話に真剣に耳を傾けてくれるあかりもまた、悩みがあった。またしても父親の方に問題があった。
二つ下に妹がいるあかりは、姉として家族を支えている。表情一つ変えることなく淡々と話す姿をみて母と重なった。あかりは強いなぁ。これが長女、姉なのか? と心の中で感心してしまう。帰宅時間を遅らせたい私に、ほとんど毎日といっていいほどあかりは付き合ってくれた。
離婚が決まった後でも毎日のように父と母は口論している。聞こえないように意識を逸らし、手短に夕飯を食べ、シャワーを浴びにいった。変えられない現実に嘆いたり恨んだりしてもなにも変わらない。そう分かっていながらも、自分の家がまともで、まともな父親がいて、夫婦仲良くて、愛に溢れる幸せな人生が欲しかった。ただ普通の家族が欲しかったと、むしゃくしゃしながらシャンプーを頭にのせて泡立てていた。
「キャー……、助けて!」「――ふざけるな!」