ラグビーW杯2019:無残な結果から蘇ったイングランドの快挙に反転攻勢の鍵を見る
オールブラックスが負けた。エディー・ジョーンズ率いるイングランドに。前回の2015年のワールドカップで初の予選リーグ敗退という屈辱を味わったイングランド協会幹部が迎え入れた、初の外国人監督がエディー・ジョーンズである。「箸の上げ下げまで指示する」という徹底した細かい指導が評判のエディーは、今回の組合せが決まるや否や、オールブラックスに絞って、勝つための作戦を緻密に練り上げた。そしてその作戦を選手たちに徹底させた。
選手たちは、当初は相当抵抗したと推察されるが、最終的にはエディの指導に従ったものと思われる。全員がエディーのゲームプランを理解し、与えられた役割を献身的に果たした。その結果得られた素晴らしい勝利だったと言える。
試合前から不穏な空気が漂っていた。スタンドオフを務めるイングランドの主将のファレルが、オールブラックスが試合前に士気を鼓舞する儀式「ハカ」を見て、ニヤリと笑ったのだ。これは予想外の反応だった。「ハカ」は勇壮で、それを一糸乱れずに演じるオールブラックスの選手たちの迫力は、これまで相手チームの脅威となり続けてきた。
常にオールブラックスと世界一を争ってきた南アフリカは、伝統的に無視する作戦を取ってきた。今回のワールドカップ直前では世界ランキング1位に上り詰めたアイルランドは、この勇壮な舞の打ち消しにかかった。しかし、イングランドは冷笑した。勝利への自信を誇示し、オールブラックスを挑発したのである。
イングランドは走力のあるバックスの横に突破力のあるフォワード2人を配置する3人一組の塊を複数作る作戦に出た。オールブラックスはイングランドがどこから攻めてくるのか的を絞り切れない。ボールが出た後、ワンテンポ遅れてディフェンスに入るが、既に相当前進されてしまう。走力のあるバックスを止めるが、密集から直ぐに突破力のあるフォワードに球を持ち出され、更に突進される。この繰り返しでイングランドにゴールに迫られた。
この「関取=忍者=侍」で塊を作る戦法は、最近多くのTier1のチームが採用している攻撃方法だが、ここまで徹底した布陣を取ることはなかなかできない。更に、イングランドはこれに加えて、狭く深いラインを敷いた。そして裏にパスを通した。これによりパスの受け手の前に走り込んで来る選手がディフェンスに対するスクリーンの役割を果たし、オフェンスの選手の姿を隠すとともに、ディフェンスの出足を鈍くすることが可能になる。