幸せの黄色いハンカチ
正嗣は見てはいないのだが、数年前日本で『幸せの黄色いハンカチ』という映画をやっていたことを思い出した。何か関係があるのだろうか。
「刑期を終えた囚人が出所して故郷へ帰る話なんだけどね。何年も経っていたから故郷の家族たちは本当に自分の帰りを待ち望んでいるのだろうかと心配になるんだよ。だから事前に手紙を書いたんだ。もしも本当に自分の帰りを待ち望んでいるのなら、樫の古木に黄色いリボンを結んでおいて欲しいって」
「へぇー、あの黄色いリボンにはそういう意味があったんですか。リボンつけて走っているジープニーも見ましたよ」
「あのたくさんの黄色いリボンはフィリピン国民がニノイを心から待ち望んでいるという証拠なんだよ」
「そうですね。何かみんなの気持ちが伝わってきますね」
「もしかすると、今日はフィリピンの歴史の上ですごく重要な日になるかもしれないね。そんな日にフィリピンを離れるのは惜しい気がするけど、日本に帰ったら注意してテレビのニュースを見るよ」
「ええ、テレビ局の人もいっぱい来ているようですから、こちらでも今夜のトップニュースでやるんでしょうね」
「中も込んでいるといけないんで、そろそろ入るわ」
レストランを出るとディパーチャーロビーは先程よりも多くの人々でごった返していた。二人は人ごみを掻き分けながら、出国検査手前の入口までやって来た。
「それじゃ、ここで。晝間君の活躍祈っているからね。今日はどうもありがとう」
「短い間でしたけど、本当にお世話になりました。また是非フィリピンに遊びに来てください」
「うん、そうだね。今度は仕事じゃなくて、遊びに来るよ」
「それではお元気で」
幾世は正嗣と握手を交わし、出国検査エリア内へ入っていった。