バキュームカーは臭くない!
そして、ふと心に、こんな言葉が浮んだ。
「サスケネーから、落ちづけ、落ちづけ」
それは小学校の頃の担任の星先生が、みんなの前で、健一に教科書の朗読をさせたり、発言させたりするとき、緊張して声も出なくなって、ガタダタ震えている健一にかけてくれた言葉だった。そのうち社長の紘一が電話に出た。
「何があったんだ。赤ん坊が便所で死んでるって? どういうことだ。警察には知らせたのか? 役所には?」
長年この仕事をしてきた紘一にとってはもちろん、創業から七十三年経つ藤倉産業の歴史のなかでも、初めてのことだった。
「警察には連絡しましたが、役所にはまだです」と健一が言うと、
「役所には、こっちで連絡しておくから、すぐに現場に戻って警察が来るのを待ってろ。それからあとは警察の指示に従って、内村さんと一緒に捜査に協力するんだ。今日の残りの汲み取りは明日に回していいから」
と言って、紘一はガシャンと電話を切った。
それから、「また、報告書を出せだのなんだのと面倒なことになるだろうな」などと考えながら、役所に電話した。電話に出た西方市清掃課の若手の職員、大野は、
「そうですか。了解致しました。あとは警察の指示に従ってください。ああ、それから、一応今回のことに関する簡単な報告書を、明日で結構ですので、出しておいてください」と言って電話を切った。
「大野の野郎、簡単に言いやがって。案の定やっぱり報告書か。何が『簡単な』だ。めんどくせえな」としかめっ面をして、独り言を言った。