「そんなことありませんよ、地上の工事現場と同じで毎日大量のゴミが出ますよ」
「そのゴミが宇宙ゴミとなって宇宙に漂うことになるんじゃー、まずいですよ」
堀内が「織田さん、その点は大丈夫です。クラゲ掃除ロボというのがいまして、せっせとゴミを回収してくれていますから」と説明すると、
「あの頭でっかちのふわふわしているロボットですね。写真で見ましたよ。あれ、何をするのかと思っていたんですがお掃除ロボなんですか」
内部ができると太陽光線や隕石からの防御のために外壁工事に入る。外壁はお城の石垣のように宇宙船の外側を覆いつくすために膨大な石材が必要になるので、地球からの搬送ではなく月に存在する岩石を利用することにした。
月の資材工場では、加工した外壁材をロケットではなく投石用カタパルトで宇宙に放り投げ、地球の引力でその石材を引き寄せ、建造船の軌道上でキャッチすることによって建造時間とコストを大量にカットする方法をとることにした。
燃料も月の内部に蓄えられている水をくみ上げて凍らせ、1トンほどの大きさの氷に加工してカタパルトで月の軌道に打ち出す。月の引力は地球の6分の1しかなく、しかも空気もないので大型のカタパルトさえあれば資材を宇宙空間に放り出すのはたやすいことである。
月から放り出された石や氷の資材は、まるで空飛ぶ雁の隊列のように連なって月から地球の上空にいる建造船の現場まで飛んでくる。
そして、バーコードの順番で組み立て場所にきちんと並べられる。
ウラシマの動力は原子力エンジンで、前部のエンジンルームと後部のエンジンルームに一基ずつ二基で水を酸素と水素に分解し、水素エンジンで電気を作って船内環境を維持し、また酸素と水素の結合爆発による推進力によって飛行する。水は宇宙にも広く存在し長距離の飛行にはもってこいの燃料となる。
この原子力エンジンは、発電専用で水の電気分解と居住空間の暖房だけにしか使われない。原子力の爆発エネルギーや火力で飛ぶのではない、極めて安全な仕掛けである。
ウラシマには地球を周回する衛星のように大きく手を広げたような太陽光パネルは装置していない。大宇宙に出てしまえば太陽の光は星ほどしか届かないのでただのお荷物になり、しかも燃料の氷を蓄えるにも邪魔になるので建造中に使った太陽光パネルは建造が終われば廃棄してしまうことになる。
そのために建造後のウラシマは細長い隕石と見分けがつかなくなる。
燃料である氷の保管場所は船体の外側に張り付けるので、燃料タンクなどはない。太陽系外宇宙では外気温は常時マイナスで燃料が溶け出すことはない。
氷は燃料が使われるに従って、真ん丸のボールがラクビー型となり、燃料を使い果たすと、ふとっちょの葉巻型の船体が現れることになる。