第5章ロボット
堀内は、織田の話をヒントにして船体の基本構造は蚕が繭を作る蚕式建造方式とすることにした。
堀内が構想を語る。
「場所は太陽光線が直接当たらないように地球の影を利用して、宇宙船の原型となる風船を膨らます。太陽風が直接当たると、X線や太陽熱で機械も資材もやられてしまうからね」
「そうです。最大の危険は太陽熱ですよ」
風船の内部に芋虫型の蚕ロボットが炭素繊維の糸を吐き出しながら全体構造を作り、最後は形状記憶合金の針金が全体の構造を固定するのである。糸と針金によるまるで繭のような形式である。
この巨大な繭の中に、前後に卵型のエンジンルームが2つと、真ん中に内径900メートルに及ぶ居住ドームが入る。二重構造である。
ウラシマの外形が天空に浮かび上がり目視できるようになった頃、世界中の人々の関心からテレビをはじめ、世界中の報道陣が連日ウラシマについての報道を始めた。
大きさや構造、これからの飛行計画などについて6人の主人たちもスター芸能人並みに引きずり出される。
主人たちはこれからの宇宙大旅行に際しての準備のために超多忙を極めている中、迷惑千万ではあるが宇宙船建造の余計な誤解を招かないように、また子供たちには宇宙のロマンを抱いてもらうように報道に協力していた。
そんな時期に竹取村の研究所に堀内を訪ねて織田がやってきた。
2人は地上から双眼鏡を覗きながら、
「堀内さん、できましたね。ちょっとふとっちょの葉巻型の格好のいい宇宙船ですね。まるで飛行船のようにふんわり浮かんで見えますよ」
「織田さんの昆虫好きのおかげですよ」
「あのままでは糸だけでスカスカですから、これからタコロボットが、墨を吹きかけるように金属粉の入った強化プラスチックを吹き付けて頑丈な外形が完成します」
「いよいよ、例のタコロボの出番ですか、クルーザーを作るときのFRP剤を吹き付けて固めるんですね」
「その通りです。ORITA研究所で開発していただいた宇宙でも使える金属入り強化FRPです」
織田は嬉しそうな顔で「若手の研究者が開発した特殊FPRは宇宙環境での実験でも相当いいデータが取れました。太陽光線を直接当てると多少問題がありますので、恒星に近いところを航行するときは少し飛行方法を考えなければなりませんが、まず問題はないと思われます」と、説明する。
「外枠ができたところに、以前工場見学に行ったときに見た手足が長いクモ型ロボットが間仕切りを作るんですね」
きれい好きな織田が「堀内さん、どこの工事現場もゴミがものすごく出るもんだが、この方式はゴミは出ないのかね」と心配する。