置き去り
診察室では、疑いの目で見られたと思う。
だが、私の話すことが記憶に関することだったので、医者は確かな証拠が欲しかったようだ。CT検査で確かめたいようだった。
私は、
「構わないので、やってください!」
と、言った。
私は、頭は痛くはないが、CTやMRIによる画像診断をしてもらうことになった。
しかし、これで全てが終わりになると思うことはなかった。
つまり、何の異常もなかったのだ。
医者は、最終的に、いかなる検査をしても異常は認められない、と言った。
私は、この休暇が明けたら会社に行かなくてはいけない。そこで、最新の私の情報を得ることができるだろうか?このあと、話が大きく展開するだろうか?
私にはそうは思えなかったが、会社には行くことにした。
会社には三週間ぶりの出社だった。
同僚は何事もなかったかのように淡々と挨拶し、普通に仕事の話をし出した。自分の話をしたくても、たまっていた仕事に打ち込まなくてはいけない状況だった。とても話せる雰囲気ではなかった。明日以降でなくてはいけないようだった。
だが、私が休みのあいだは、まるで、助かったと言わんばかりの言い分を漏れ聞いた。私が不在のこの三週間は、同僚たちには大きな安堵感があったようだ。私という、うるさい人間がいない気楽な日々だった、と。
だから、私は自分の状況を話し出せずにその日は終わった。明日以降も話せるかわからない気がした。