足立くんは、自分が書いたものを印刷してくれなかった佑子に、いぶかしげな視線を投げた。でも、もしかしたら鞄の底でくしゃくしゃになってしまうかもしれないプリントより、毎日みんなで共有する部室の掲示物にしたのだ。そこに、佑子なりのメッセージを書き込んだ。
パソコンを立ち上げて打ち込むことで、綺麗な格好は作れただろう。でも、肉筆でメッセージを加えたかった。安っぽいマジックインキではあるけれど、手で書き込むことが大切だと思ったのだ。
そして、足立くんへの言葉を、まとめきれずにいた。たった一人のラグビー部。その時に彼がいたからこそ今がある。感謝、敬意、そんな言葉は全部上滑りするし、グラウンドでの足立くんの笑顔に応える言葉がなかなか思い浮かばない。
軽いメニューで新年最初の練習を打ち上げて、部室でこの掲示物を見せたら、みんながざわめいて、そして笑顔になった。不満な顔をしたのは足立くんだけだ。
「先生、何でオレだけ、コメントがないんですか?」
部員たちが引き揚げて行く流れの中で、妙に無表情だった足立くんは居残った。
「どうしても、足立くんへのコメントが書けないの。私にとって、それから大磯東ラグビー部にとって、きみの存在が大きすぎるからなのかも」
足立くんは、苦笑いを浮かべるしかない。
「でもね、一つだけ、書いてもいいかな、と思った言葉は、ある」
「書いてくださいよ」
佑子は、赤いマジックのフタをはずして、「足立善彦」という名前のあとに、書いた。
「きみが、我がティームのプライド」