と聞いてきた。子どもたちには悪気はない。ただ、普通とは違う健一の風貌が、純粋に不思議に感じるのだろう。健一にとってそういうことはよくあることだが、いつもなぜか何も言えなくなって黙ってしまうのだった。
そしてまた、それには答えずに、
「危ないから、そばに寄らないでね」
と繰り返すのだった。
吸引用ホースは、毎分約五百リットルもの屎尿を吸引することができる。ものすごい圧力がかかるホースは、直径六センチメートルもある特殊塩化ビニール製のとても重いものだ。
それが屎尿の中の固まった便や異物を吸い込むと、大蛇が怒ったように跳ねて暴れまくる。
もし、それが小さな子どもに当たったら、骨折どころでは済まない大事故になる。事実、他社の作業員がヘルメットをかぶった頭に、暴れたホースが当たって気絶したのを知っていた。そこで誘導してきてくれた安協の人に、周りの人、特に子どもに注意していてもらうように頼んで、作業を続けた。
すると、それに気づいた母親たちが血相変えて飛んできて、
「なんでそんなところにいるの。汚いでしょ。近づくんじゃないの」
と言って、嫌がる子どもの手をグイグイ引っ張って、逃げるように立ち去って行った。このとき、健一は、心のなかで、
「汚いじゃなくて、危ないから、だろ。それに、うちの子がお仕事のお邪魔をしてすみません、くらい言えないのかね」
と思いながらも子どもたちには、
「バイバイ、気をつけてね。盆踊り、楽しんでね」
と言いながらニコニコして手を振った。そして、何もなかったように仕事を続けるのだった。