ルーブリック評価の効果
ここまでの話はルーブリック作成の一般的手続きから始まって、その手続きにもとづいたシートの評価手段としてのルーブリックの作成過程、そして、その運用上の注意点について解説してきた。ここでは、ルーブリックを用いたシート評価の効果について見ていくことにする。それは以下の3点に集約することができる。
採点業務の効率化がはかれる:ルーブリック作成は意外と考慮しなければならない点が多く、面倒な作業ではある。しかし、ともすれば曖昧になりがちな評価軸を絞り込んで明確にすることにより、それ以外の観点でレポートなどを読み込む必要がなくなる。それを厳格に運用することで採点業務にかかる時間を大幅に短縮できる。実際、前章で紹介したシート程度の文章量であれば、受講者100名程度であっても2時間半ほどで採点業務を完了することができる。
シートの記述内容に変化が見られる:前章で作成例を紹介したが、この点はルーブリック評価自体というより、シートおよびルーブリックを同時に返却することによる効果である。先述の通り、シート返却時にルーブリックによる採点結果が添付される。だから、受講生にとっては、《自分の記述でなぜこの点数になったのか?》という情報が開示される。
点数が高ければ返却されたシートおよびルーブリックが高得点につながる記述の基準になるし、逆であればルーブリックを通じて改善点が明確になるため、点数上昇に向けた取り組みも容易になる。そして、それがシート作成に首尾よく反映されれば教員にも観察可能になり、そこからルーブリックを通じた学生の更なる指導も容易になるだろう。その意味で、ルーブリックは学生の学習活動を促す学習ツールとしても有用なのである※注3)。
講義中の緊張感が最後まで持続する:この点も、ルーブリック評価の直接的効果というよりもその返却44による副次的効果である。事前講義や導入講義では、講義中における〈聞く〉〈メモを取る〉〈まとめる〉作業がその成果(成績評価や合否判定)に結び付けられているから、私語・寝る・携帯端末に触れるなどの行為はシートの出来栄えに直結し、ルーブリック評価にもとづく点数が低くならざるを得ない。受講生は最悪の結果を回避するため、必然的にシート作成のための取り組みに集中せざるを得なくなる。一瞬でも手を抜けば点数が低くなるような仕掛けがこのルーブリックなのである。
※注1)ただし、SGHに関しては高校で講義を実施したため、講義の翌日を期限に高校でシートを回収、それを大学にまとめて郵送してもらうようにした。
※注2)北海道科学大学のAO入試では、3回のセミナー(講義・グループディスカッション・実験実習)においてルーブリックによる評価を行い、そのルーブリックを受講生たちに開示している。なお、セミナー参加者33名に対して事後アンケートを行った結果、すべての参加者が「(ルーブリックの)フィードバックがあってよかった」と回答している。菊池明泰・細川和彦・塚越久美子・碇山恵子・中島寿宏・石田眞二・林孝一「AO入試における多面的評価の導入―ルーブリック評価を用いた入試制度の構築―」『大学入試研究ジャーナル』第27号、2017年、pp.23-28。
※注3)この点に着目して、西谷尚徳はルーブリック評価についてレビューするとともに、自身もルーブリックを用いた授業実践を行っている。西谷尚徳「〈実践報告〉文章力養成のためのルーブリック活用の教育的意義の検討-授業実践から見る教育手法-」『京都大学高等教育研究』第23号、2017年、pp.25-35。一方、鈴木雅之は中学2年生101名を対象にした数学の実験授業を行い、その中でテスト返却の際にルーブリックを添付する場合と答案を添削する場合で被験者である生徒たちの学習に対する認知構造がどう変化するのかを調べた。その結果、ルーブリックを添付された群はされなかった群に比べて、テストが「自身の理解状況を把握し学習改善に活用するためにある」という認知が有意に高まり、数学の学習に対する内発的動機づけが有意に高かった。反面、答案を添削することの認知構造に与える効果は見られなかった。鈴木雅之「ルーブリックの提示による評価基準・評価目的の教示が学習者に及ぼす影響-テスト観・動機づけ・学習方略に着目して-」『教育心理学研究』第59巻第2号、2011年、pp.131-143。